兵庫県明石市議会で3月25日、水上バイクの危険行為に対し懲役刑を含む罰則を盛り込んだ条例案が採決され、全会一致で可決された。2021年8月に同市の林崎・松江海岸で危険運転をした水上バイクに対し、明石市長が殺人未遂容疑で刑事告発していた。短期間で、刑事告発から市町村初の懲役刑の条例を提案した張本人である、泉房穂明石市長を直撃した。(聞き手・村山祥栄)
--条例可決はそもそも市長の刑事告発がきっかけですね。
「過去、明石には市民の命を守り切れなかった哀しい事故がありました。市長として市民の命を守るのにベストを尽くしたい。でも、当時水上バイクを取り締まるしっかりした法律がなかったわけです。結果、やれることはこれしかないという思いで殺人未遂で刑事告発しました。しかし、あの告発以来テレビ等で取り上げて頂き、日本中で危険運転がピタッと止んでくれました」
--それでも、条例化を?
「私、あの一件以来、水上バイクの免許を取ったんです」
--え?水上バイクに乗るんですか?
「はい、これ免許書!いや、最初は水上バイクについて本を読んだのですがわからないのですね。だから、自分で乗って確かめようと思いまして。しかし、乗ってみたらわかるんです。水上バイクは一瞬で100キロまで加速し、そもそもブレーキがないのですね。『危ない!』と思ったとき、どうするかといえば、アクセルふかして曲がるしかないのです。これが初心者には難しい。やってみて改めてこれは危ないと感じました」
--水上バイクの免許って訓練しないと取れないのでは?
「これが一日半で取れちゃうんです。だから、初心者の運転はまだまだ危ないですよね。だから、やっぱり条例を作ってしっかり整備しないという結論に行きつくわけです」
--条例化はともかく、市町村初の懲役刑というのも驚きですね。
「実は私、この件で何度も検察庁に行って相談しました」
--えっ、市長自ら検察へ?
「はい、それで懲役刑2年で折衝をしておりました。さすがに厳しすぎると言われ、最終的に6カ月に落ち着いたわけですが、しっかり検察のお墨付きをもらってやっておりますので、私が暴挙に出ているわけではありません(笑)」
--その後、先日全会一致で可決した。
「はい、お陰様です。明石市でこの条例ができたことで、お隣の神戸市、兵庫県も条例化に向けて動き出しています。さらに今、国会でもそうした動きになり始めています」
--それはすごいですね。
「海はつながってますからね。明石市だけがやっても隣に行けば終わりですから、基本的には国でやってもらわないといけないと思いますね」
--なるほど、有難うございました。
◇ ◇
あまり知られていないが、このように「明石発信」で全国に波及する政策は実は多い。先日、明石市の副市長二人の退任の報がニュースになっていたが、この強烈な突破力と熱量は従来存在する役所のものではなく、現場レベルでの苦労は絶えなかったのではと察するものが正直ある。ただ、従来の概念をひっくり返し、政策実現に衝突を恐れず突っ込んでいくからこその結果ともいえる。泉房穂明石市長の破天荒ぶりに今後も目が離せない。
▼水上バイク明石沖危険走行 2021年7月31日14時半ごろ、兵庫県明石市の林崎・松江海岸で、遊泳者の近くを水上バイクで航行し、危険を及ぼした疑い。けが人はいなかった。同年8月、明石市の泉房穂市長が刑事告発し、神戸海上保安部が3月22日、40代の男性を殺人未遂と県水難事故防止条例違反の両容疑で書類送検した。
◆村山 祥栄(むらやま・しょうえい)前京都市会議員、大正大学客員教授。1978年京都市生まれ。専修大学在学中は松沢成文氏の秘書を務める。リクルートを経て京都市議に。2010年、京都党を発足。2020年2月の京都市長選で出馬も惜敗。現在は大正大学客員教授。
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