ロシアがウクライナに侵攻してから8カ月が経つが、最近になって中国がロシアと距離を置く姿勢を見せている。9月中旬、プーチン大統領と習国家主席がウズベキスタンで約半年ぶりに顔を合わせた。両者が対面するのはウクライナ侵攻前、2月上旬にプーチン大統領が北京を訪問して以来となる。この会談でプーチン大統領は、「この半年で世界情勢は大きく変化したが、中露の友情関係は不変だ」と中国を評価する発言をし、習近平氏も「劇的に変化する世界の中で、中露は大国の規範を示し、主導的役割を果たす」と中露関係の重要性を指摘した一方、ウクライナ問題に話が移ると習近平氏は無言を貫き、プーチン大統領は「中国の中立的立場を高く評価する」と発言したのだ。
これまで中国はロシアへの非難や制裁を避け、欧米が対ロ制裁を強化する一方、経済的にはロシアへ接近していた。中国税関総署の発表によると、5月のロシアからの原油輸入量が前年同月比で55パーセント、天然ガスが54パーセントそれぞれ増加し、7月のロシアからの輸入が前年同月比で5割あまり増加したとされる。中国がロシアに対して距離を置くような仕草を示すのは、ウズベキスタンでの会談が初めてだ。では、習近平氏にはどのような思惑があるのだろうか。
そこにあるのは、これ以上ロシアをかばいきれないという思いだ。ウクライナ戦争での劣勢に打ち勝つため、プーチン大統領は部分的動員という策を打ち出したが、“部分的”というのは極めて曖昧な言葉で、1%にも99%にも使用可能で、要は政治的決断によって何とでもなるということだ。既に、プーチン大統領の決断は純粋な軍事戦略、政治戦略から逸脱したものと言え、こういった行動に中国は支持はおろか、沈黙もできない状況になっている。
周知のとおり、中国は一帯一路などによって世界的に影響力を拡大させており、米国を唯一の競争相手と位置付けている。そうであれば、大国中国にとって世界各国からのイメージが極めて重要になり、中国は戦争を開始したロシアを黙認しているとの評価が拡大することは絶対に避けたい。ASEANや中東、アフリカや中南米の多くの国々も対ロ制裁に加わっておらず、非難を避ける国も少なくない。こういった国々は中国がロシアにどのような姿勢を見せるかを注視しており、それは中国にとっても1つの政治的プレッシャーとなる。
今日の国際情勢の中、中国は欧米や日本以上に複雑な立場にある。欧米や日本は初めからロシアを批判し、対ロ制裁を強化しており、その行動は首尾一貫している。一方、中国は欧米との対立に加え、侵略という暴挙に出たロシアと微妙な関係を保ち、また第3諸国の動向にも注意を払う必要がある。米中対立という長期的課題に直面する中国にとって、米国をけん制し続けるためロシアは重要な共闘相手になる。習氏としてもプーチン大統領と戦略的共闘関係を安定化させ、欧米との競争に対峙していきたい思惑がある。しかし、孤立路線を突き進むロシアに同調し続ければ返って国際的評価を失う恐れが色濃くなってきたことで、習氏としてもバランスを取らざるを得ない状況となっている。
今後も、ロシアとの共闘関係は維持する方針だろう。しかし、ロシアだけでなく中国にとっても国際環境は難しくなっている。今後、ロシア軍の劣勢がさらに顕著になれば、プーチン大統領はさらなる暴挙に出るだろう。そうなれば、ロシアとの共闘関係を抜本的に見直さざるを得ない状況が到来する可能性があり、中国としてもウクライナ情勢を心配しながら注視している。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。
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