果樹園の納屋で起きた多頭飼育崩壊
ゆきちゃん(1歳・メス)は、福島県のとある果樹園の納屋で生まれた。その果樹園のオーナーは納屋で不妊手術をせずに猫を多頭飼育していた。しかし、そのオーナーが亡くなり、果樹園は一時閉鎖。猫たちは飼い主を失った。親族が月に数回餌やりに来ていたようだが、猫たちは次第に痩せ細り、衰弱していったという。その頃、ボランティアに「納屋に子猫が捨てられている」という情報が入った。現場へ向かったら、子猫と見紛うほど痩せた成猫が約12匹見つかった。不妊手術をするためには、まず手術に耐えうる体力を付けなければならず、ボランティアはそれから毎日栄養のあるごはんを届けたそうだ。
手術にあたっては、亡くなった飼い主の親族に許可を得る必要があったが、近所の人が連絡先を知るはずもなく、事態は難航した。しばらくして発情期が来ると雌猫たちは出産し、歩くこともままならないほど衰弱した身体で子育てをしている母猫もいた。そんな状況では子猫が正常に育つはずもなく、ボランティアが発見した時、産まれて間もない子猫たちは猫風邪が悪化し、目に膿が溜まって開けることもできないような状態だったという。
2021年9月、保護された子猫たちは、自宅などで保護猫を預かりケアしてくれるボランティアにそれぞれ引き取られた。ゆきちゃんたち6匹の姉弟もとあるお宅に迎えられたが、1匹は衰弱がひどく保護当日に息を引き取ったそうだ。
この現場では約20匹の子猫が保護されたが、その半数はボランティアたちの懸命なケアも虚しく助からなかった。成猫達はボランティアの方が変わらず届けてくれるごはんをもりもり食べ体調も回復し、無事不妊手術を済ませ、今も果樹園の納屋で暮らしているという。
■この子を逃したくない
Hさん夫妻は、2021年末に東京を離れ、夫婦で仙台へ移住した。二人とも実家で犬と共に育ったこともあり、生活が落ち着いたら共に暮らすパートナーを探したいと思っていた。
「夫はフルリモートで働いていて、引越しを機に私も家で過ごすことが多くなりました。家を中心とした私たちの生活スタイルには、猫との暮らしが合うのではないかという話になったのも自然の成り行きです。それからは猫の飼い方を書籍などで勉強しつつ、ペットのおうちという譲渡サイトを見るようになりました」
12月末のある夜、何気なくペットのおうちを眺めていた時に一目惚れしたのがゆきちゃんだった。当時生後3ヶ月ほどのあどけない表情はとても愛らしく、保護主であるボランティアのブログには、兄弟たちと元気に走り回るお転婆な様子が掲載されていた。Hさんは居ても立ってもいられず、すぐに夫と相談し譲渡の申し込みをした。
「深夜3時を回っていたので少し躊躇したのですが、なぜかこの子を逃したくない!という強い気持ちが働いたのを覚えています。まさに一目惚れです」
それからボランティアと連絡を取り合い、2022年1月、1週間のトライアルを経て、晴れてゆきちゃんはHさん夫妻の家族になった。
「慎重派だと聞いていましたが、実はなかなか肝が据わっていて、トライアル翌日にはへそ天を披露してくれました(笑)」
■バトンを預かった大切な命
ゆきちゃんと暮らし始めてから、分からないことがあったら都度ボランティアや獣医師が相談に乗ってくれた。
「困ったことは特にないのですが、強いて言うなら、可愛いさのあまりずっとゆきちゃんとゴロゴロしていたくなってしまうことぐらいかもしれません(笑)夫はまれにリビングで仕事をするのですが、ゆきちゃんがキーボードの上に寝転がってしまうと、嬉しそうに困った困ったと言っています」
「ゆきちゃんがいなかった頃はどうやって暮らしていたっけ...?」と夫婦で話すほど、夫妻にとってゆきちゃんはかけがえのない家族の一員となった。Hさんは、日向ぼっこしながら気持ちよさそうに寝ているゆきちゃんの寝顔を見るだけで、心が癒されストレスが吹き飛ぶのを感じるという。
「飼い主がソファに寝そべっているとお腹の辺りに乗ってくるので一緒にくつろぐのですが、私にとってこんなに幸せな気持ちになれることはそうそうありません」
Hさんは、ゆきちゃんと暮らすまでは猫はマイペースだと思っていたが、猫は一緒に暮らす相手と付かず離れずの距離を取るのが上手いのだと印象が変わったという。
ボランティアたちが一生懸命繋げてくれた小さな命。バトンを受け取ったHさん夫妻は、
「今度は私たちがそのバトンを預かりました。そのことを肝に銘じ、ゆきちゃんが安心して健康に長生きできるよう、最後まで責任を全うしたいと思います」と言う。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)
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