毎年、この時期になるとノーベル文学賞を期待される作家の村上春樹さん(73)。今年も10月6日夜、日本各地でファンの「ハルキスト」が結果を見守った。村上さんとゆかりが深い神戸でもファン集結イベントが開催されたが、その中に村上春樹さん、そして妻陽子さんのお姿も。「えっ、ご本人が!」と驚いた方、すみません。このお二人、夫妻で同姓同名というハルキストの間では知られた存在だとか。以下ややこしいですが、「小説より奇なり」な事実をお伝えします。
■ アイスブレークで活用
神戸の村上春樹さんは53歳の会社員。大阪出身で、10歳ぐらいの時、新聞の新刊広告で同じ名前の作家がいることを知ったという。神戸の春樹さんが18歳になった1987年に「ノルウェイの森」が刊行されると、作家の春樹さんの知名度がぐんぐん上がり、それに引っ張られるように神戸の春樹さんの注目度もぐんぐん増加。入社式で名前が呼ばれると、会場から「おっ!」と声が上がったそうだ。
以来、初対面のあいさつの際は粋なアイスブレークの手法として利用。ノーベル賞発表前後では「今年は頑張ります」「やはり無理でした」と本人に代わって抱負を述べるなど、会話に彩りを添えてきた。
■ 勝手に落胆、デメリットも
同姓同名はメリットの方が多いが、デメリットもある。東京都内でゴルフをプレーした際、先に利用者名簿を確認していたキャディーが「本人が来たと期待しましたよ」と勝手にがっかりしたり、病院でフルネームが呼ばれると周囲がざわざわしてしまったりするという。
ちなみに、神戸の春樹さんが生まれた1969年、作家の春樹さんは早大生。「風の歌を聴け」で第22回群像新人文学賞を受賞し作家デビューするのはその10年後の1979年のこと。当然ながら神戸の春樹さんは作家の名前をあやかったわけではなく、お父さんの「春夫」から春の字を継いだという。
■村上陽子は多い名前
一方の陽子さん。作家春樹さんの妻陽子さんは、春樹さんのエッセー「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」などで、撮った写真を披露していることから、呼び方を「写真の陽子さん」としたい。
神戸の陽子さん(51)の旧姓は武山。27年前に結婚して村上陽子になると、病院などで「村上陽子さんは多いので間違えないように住所も教えて」と言われるようになったという。
■結婚年と誕生年が一緒
そこから自身の名前について、たびたび話題にするように。そんな中、作家の春樹さんの妻も陽子であることを知ったという。しかも、写真の陽子さんが作家の春樹さんと結婚して村上陽子(旧姓高橋)になった1971年が、自分の誕生年だと気付き「なおさら縁を感じた」という。
■老舗ピザ店、春樹も愛用
そんな夫妻が、神戸の老舗ピザ店「ピノッキオ」で開かれたファン集結イベントに参加したきっかけは、一つの企画。同店は、作家の村上さんが何度か訪れており、エッセー「辺境・近境」にもシーフードピザを食べ、ビールを飲む描写が描かれている。そんな縁があり10年前からノーベル文学賞発表の時にはファンが集っている。2017年には同姓同名の村上春樹さんの来店を呼びかけ、食事を振る舞う催しを実施。神戸の春樹さんと陽子さんが応じ、続いて今年は集結イベントにも参加した。
■今年も「すいません…」
今年の10月6日はいろいろな祝い事が重なっていた。神戸の春樹・陽子さんの結婚記念日、神戸の春樹さんの誕生日、ファン集結イベント10年目、ピノッキオ60周年。がぜん店内のボルテージが上がる中、フランスの女性作家アニー・エルノーさん(82)の名前が呼ばれた。神戸の春樹さんがつぶやいた。「なんかすいません…」。また来年、期待しましょう!
(まいどなニュース/神戸新聞・堀内 達成)
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