将棋の「第35期竜王戦第4局」は11月8、9日の両日、福知山城天守閣であり、藤井聡太竜王と広瀬章人八段が対戦する。福知山市での開催は竜王戦初の「お城将棋」となった2018年以来4年ぶり2回目。機を見て敏な福知山市がこんな好機を見逃すはずはなく、主催者が驚くほどのおもてなし企画を用意し、大一番を迎える。
熱気ムンムンだ。将棋界最高位のタイトルを賭け、時の人と言っていい藤井竜王(王位、叡王、王将、棋聖の五冠)が初お目見え。これだけでも凄いのに、広瀬八段が4年前と同じチャレンジャーとして福知山に帰ってくるのだから市民のボルテージが上がるのも当然か。市の担当者にも力が入る。
「第4局ですからね。ということで絶対に藤井さんがやってくる。しかも、挑戦者に決まったのが広瀬さんで幸先よく1勝した。どちらにも頑張ってほしいですが、広瀬さんは当時竜王だった羽生さんとともに、ここ福知山に将棋ブームをもたらした方ですから。おかえりなさい、という気持ちです」
ノリの良さと、ここ一番の集中力が持ち味の福知山市。今年5月20日に竜王戦の開催が決定するやいなや、次から次へとユニークな企画を打ち出した。まずは7月早々、地元の誇り、明智光秀が築いた福知山城の天守閣に「将棋フォトスポット」を設置。携わったのは前回の竜王戦後に発足した福知山市役所将棋部だった。その流れで言えば、竜王戦以前には市内にひとつもなかった「将棋教室」が現在は2カ所あるという。
さらに、竜王戦福知山城対局実行委員会が立ち上げられると、その第1弾として7月10日には「現役プロ棋士と対局しよう!!」を企画。宮本広志五段、室田伊緒女流二段を招き、駒はNHK将棋トーナメントと同じものを使用した。プロとの1対1の対局なんて夢のよう。別室では大盤解説をリアルタイムで実施するなど粋な演出をした。また8月末には「夏休みこども竜王戦」を実施。これには幼稚園の年長から高校3年生まで84人が参加し、優勝者には11月7日に開かれる竜王戦前夜祭に参加できるペアチケットが渡された。
ハイライトは何と言っても前回も実施した「勝負メシ」企画だろうが、今回は勢い余ったかのように「おやつ」「ドリンク」の3点を公募。51品の中から最終的には30品に絞り込んだ。例えば、勝負メシは「福知山産京地どりの親子丼」「肉のまち福知山特選牛すき焼き定食」「明智十兵衛光秀の特濃豚骨そば」など10品。最近の棋戦では食事は何かと注目される部門で、特に藤井五冠が口にしたと知れると、名古屋名物「ぴよりん」のように爆発的なヒット商品になることもある。
今回、選ばれた30品目は地元を代表するものばかり。「福知山はスイーツのまち、肉のまちでもあるので、食の面でも対局をサポートできるのでは」と市の担当者も胸を張る。果たして、両者は何勝何敗でこの日を迎え、藤井竜王、広瀬八段はそれぞれ何を召し上がるのだろうか。予想するのもおもしろいかもしれない。
もちろん、市民参加型のイベントを用意しており、前夜祭や大盤解説への参加者も公募する。さらに、決戦の舞台となる福知山城天守閣の特設対局室を「お城将棋」にふさわしい場所に整えるため、クラウドファンディングを実施。竜王戦記念扇子など3点セットの返礼品も用意した。
言うまでもなく、将棋イベントに対して市民がここまで一体となっているのは4年前の2018年に、福知山城で竜王戦史上初の「お城将棋」を実現させたからこそ。19年8月には「こども竜王戦福知山将棋大会」が開かれ、その決勝戦を天守閣で行うなど、子どもたちの心をしっかりとつかみ、どっしりと地域に根づいているからだ。そこで、今回も余韻を楽しもうと11月12日、13日に「こども竜王戦」「竜王戦福知山城対局アフターパーティー」を実施する。福知山市にとって市制85周年の記念イベント。再びレガシーとしなければいけない。最後に担当者が熱い思いを口にした。
「今回の開催が決まってから竜王戦主催の読売新聞社さんにも驚かれるくらい、様々な企画を行ってきました。ちょっと行いすぎかもしれません…。でも、せっかく頂上決戦が福知山城で行われるのですから、みんなで対局室づくりや勝負めしを準備して、対局者のお2人を応援する気持ちが伝われば良いなと思います。そして、いろんな人に関わっていただくことで竜王戦を通して、まちを元気にしたいとも思っています」
そういえば、筆者もかつてゴルフ担当記者だったとき、トーナメントの翌日にプロ仕様のコースを何回かラウンドさせてもらったことがあるが、同じ舞台に立ったというだけで興奮したものだ。子どもたちには、かけがえのない体験となり、もしかすると近い将来、福知山から「第2の藤井聡太」が誕生するかもしれない。
(まいどなニュース特約・山本 智行)
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