壮絶な過去を乗り越え、30歳でプロボクサーデビューした葉月さな(38)の生き様を描いたドキュメンタリー映画「雲旅」(下本地嵩監督)の再上映が決まった。レビューでは「エンディングで”えぐられる”」「心の深い所に石を投げる…そんな映画」などと大反響。11月中旬からから12月中旬にかけ、地元の福岡や高知、大阪での上映が決まったことを受け、関係者に話を聞いた。
映画「雲旅」は福岡のジムに所属するシングルマザーで、第7代東洋太平洋女子ミニマム級王者の起伏に富んだ生き様を描いたドキュメンタリーだ。7月に公開されると、単なるスポーツドキュメントを超えた作品として多くの支持を得た。
「私自身、もっと重い映画と思われるのではないかと不安もありました。しかし、勇気づけられたとか、印象に残る作品だったと言われ、嬉しかったです。自分の生い立ちを語るのは好きではありませんでしたが、ありのままの自分を見てもらって、いまは良かったと思っています」
こう語る主人公の葉月さなは本名を脇山さなえといい、1984年に福岡県久留米市で生まれた。しかし、6歳で両親に捨てられ、弟とともに養護施設へ。その後は17歳で出産し、シングルマザーとなった。
ボクシングを始めるきっかけは最愛だった弟の自死。そのとき、彼女は30歳にさしかかろうとしており、運動経験も全くなかったが、何かに取りつかれたようにボクシングにのめり込んでいった。
「自分自身が何者なのかを知りたかったし、息子に背中を見せたいという思いがありました」
映画のタイトル「雲旅」には、世の中は諸行無常で、雲のように絶えず変化していくというメッセージが込められ、その一方で理不尽なことに耐えれば、やがて光が差すという希望を持たせてくれる。また高取淑子さんが歌う主題歌にもなっており、その甘く切ない声も印象深い。
戦うシングルマザーの撮影が始まったのは2017年3月。その間の心の葛藤を描き、最後は21年1月、コロナ禍の困難を乗り越え、コスタリカでの世界戦に挑むまでの濃密な4年間を描いている。
メガホンを取ったのは福岡、東京を拠点にミュージシャンや舞台などでも活躍している下本地嵩監督。7月に地元福岡の中洲大洋劇場で封切られると8月には東京・下北沢のトリウッド劇場、9月には名古屋のシネマテーク、京都の出町座、大阪のシアターセブンと立て続けに公開され「味わいのある作品」として映画ファンの深層心理に迫り、心をつかんだ。
これには52歳になる下本地監督も「30歳にして、ボクシングを始めた女性には人生の深みや厚みがあるだろうと思い、作品を撮り始めましたが、間違いありませんでした。ありがたい反応をたくさんいただきました」とうなずき、素直に喜んだ。
実際に映画のレビューには「エンディングで”えぐられる”」「心の深い所に石を投げる…そんな映画」との書き込みが寄せられたほど。さらに音楽バンド「ウルフルズ」のリーダー、ウルフルケイスケさんがツイッターで熱い投稿をするなど、歌手や画家など各方面からも高評価を受けた。
これを受け、まずは11月11日に福岡・天神のパブリックバー「Bassic」で特別上映会が”凱旋”する形で決定。2人のトークショーも行う。この催しは下本地監督にとっては自身の音楽レーベル「TRAVEL HIGH」の25周年イベントにもなる。
その後は19、20日の2日間計5回にわたって高知市の「メフィストシアター」で初上映。さらに12月4日から11日まで大阪・中央区の「マテリアル谷町」でも再上映される。
一方、葉月は、この27日に大阪府豊中市の「176BOX」で亀田興毅プロデュース「3150FIGHT」の試合に備え、追い込みに入っている段階だ。7月に大阪・堺で行われた試合では惜敗しており、これで世界戦を含め3連敗。心に期すものがある。
「映画によって、自分がこれまでやってきたことが証明できている。生きた証拠になっているし、それが支えにもなっている。ちょうど12月には大阪で上映されるのでタイミング的にいいところを見せたいと思っています。私は諦めません。まだまだやり続けます」
発奮材料は多い。勝って、映画の上映に弾みをつけたいところだ。
(まいどなニュース特約・山本 智行)
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