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第4部 霧の立つ里

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 兵庫県丹波市山南町の加古川水系では蛇と恐竜が地域をつなぐ。応地(おうち)集落に伝わる「蛇ない(じゃない)」は、わらを長さ約10mの大蛇をない上げて五穀豊穣や家内安全を願いながら家々を巡る。近くの川代渓谷で国内最大級の草食恐竜「丹波竜」の化石が見つかり、町おこしに一役買っている。

願掛けの神事「蛇ない」
わらの大蛇を持って集落を練り歩く人たち=丹波市山南町応地(撮影・斎藤雅志)
わらの大蛇を持って集落を練り歩く人たち=丹波市山南町応地(撮影・斎藤雅志)

 兵庫県の加古川を北へさかのぼった先、丹波市山南町の応地(おうち)集落。家々が雪化粧をした1月の初旬、伝統行事「蛇(じゃ)ない」が執り行われた。

 朝、集落を見下ろす大歳神社。人々がわらで長さ約10メートルの大蛇をない上げた。その大蛇を抱え、集落の安寧や無病息災、五穀豊穣(ほうじょう)を願いながら、全ての家々を巡る。

 江戸時代中期。集落の前を流れる加古川が増水し、子どもが対岸に取り残されてしまった。そのとき、突然現れた大蛇が胴体を橋代わりにして助け出した。いつの頃からか、村に伝承されてきた話だ。

 川は改修工事を経て今、細く小さな流れになった。それでも、2014年8月の丹波豪雨では浸水被害に遭った。「昔から水に悩まされてきた集落やから」。蛇ない保存会前会長の林敬博さん(65)がつぶやく。

 願いを託されるのは、蛇だけじゃない。同じ山南町には、巨大な竜もいた。(金 慶順)

過疎の村 救った「丹波竜」
丹波竜が眠っていた姿を想像しながら、化石発掘現場のイラストを塗り直す上久下小学校の児童ら=丹波市山南町上滝
丹波竜が眠っていた姿を想像しながら、化石発掘現場のイラストを塗り直す上久下小学校の児童ら=丹波市山南町上滝

 「蛇(じゃ)ない」で知られる兵庫県丹波市山南町の応地(おうち)集落から、加古川の流れに沿って東へ。篠山川へと流れを変えた川岸に、太古の昔、竜がいた。

 濃い緑の流れに、荒々しい岩肌が迫る。丹波市と篠山市にまたがる川代(かわしろ)渓谷。丹波市山南町上滝では、篠山川の激流に浸食され、「篠山層群」が顔を出す。1億1千万年前、白亜紀前期の地層だ。JR福知山線下滝駅から歩いて20分。そこには太古の世界が広がっている。

 地層の上にある上久下(かみくげ)地区。川に面した急斜面の地で、2006年8月、市内に住む2人の男性が、国内最大級の草食恐竜「丹波竜」の化石を発見した。

 2月中旬、その発掘現場に上久下小学校の児童10人が降り立った。現場は地層を保存するため、約10メートル四方のコンクリートで覆われている。

 そこに丹波竜のイラストが描かれている。「こんな形で埋まってたんやで」と第一発見者の一人、村上茂さん(73)。丹波竜は各部位の位置関係がおおむね保たれた状態で見つかった貴重な事例。「眠っていた姿を想像してもらえるように」。児童らが丁寧にピンク色に塗り直した。

 村上さんは上久下地区で生まれ育った。大阪で就職し、定年退職後に戻った故郷には鮮魚店も駄菓子屋もなくなっていた。「何とか村を元気にできないか」。旧友で同じ市内に住む元高校教諭の足立洌(きよし)さん(74)に誘われ、調査のため川岸を歩いていた夏の日。岩から突き出た恐竜の肋骨(ろっこつ)の化石を見つけたのだ。

 「全身の骨が見つかる可能性が高い。地元が大いに沸いたんです」

 昨年整備された遊歩道をたどる。発見地に近い場所に地元住民が開いた施設「元気村かみくげ」の入り口に、高さ7メートル、体長15メートルの実寸大のモニュメントがある。施設では、卵形の生地に丹波竜の焼き印を押した菓子「恐竜焼き」が土産に人気だ。恐竜化石の発掘体験もできる。

 ほかにも、丹波恐竜米に子ども向け絵本、恐竜太鼓や恐竜街道…。上久下には「恐竜」があふれる。長い長い眠りから目覚めた竜が、過疎の集落に一筋の光をもたらした。

住民参加で続く「試掘」
篠山層群で見つかった化石から岩石をはがし取る「クリーニング作業」=丹波市山南町谷川、丹波竜化石工房ちーたんの館
篠山層群で見つかった化石から岩石をはがし取る「クリーニング作業」=丹波市山南町谷川、丹波竜化石工房ちーたんの館

 「ここは化石の宝庫ですから」。もう一人の第一発見者、足立さんは篠山層群の周辺を歩くとき、必ず地面を見る。丹波竜以外にも獣脚類や哺乳類などの化石が見つかった。今年2月には、篠山市大山下(おおやましも)のトンネル掘削工事から出た角竜(つのりゅう)類3体の化石発見が発表された。

 兵庫県立人と自然の博物館(三田市)によると、丹波竜の発掘調査は06~11年度に実施され、延べ2900人のボランティアが参加した。採掘した標本は3万4千点以上。化石から不要な岩石を取り除くクリーニング作業にも、訓練を積んだ地元の人たちが関わってきた。

 等身大の骨格標本を展示する「丹波竜化石工房ちーたんの館」(丹波市山南町)。非常勤職員の波部寿美さん(42)が顕微鏡に向かう。岩石の中に黒い筋が見える。骨の化石だ。顕微鏡をのぞきながら、数種類の電動ドリルを使い分け、石の部分だけを削り取る。

 「これほど多くの住民が参加するのは全国でも珍しい」。研究員の池田忠広さん(39)は驚く。当初から携わる人なら経験10年超のベテランだ。まだまだ眠る大量の化石。地元住民が主体の発掘に研究員が同行する「試掘」は今も続いている。

 丹波竜の学名はタンバティタニス・アミキティアエ。ギリシャ語でティタニスは「女の巨人」、アミキティアエは「友情」を意味する。

 化石から雌雄は判別できないが、村上さんは“女性”だと思っている。

 「丹波竜は、過疎に悩む上久下にとって女神のようなもんです」

大蛇は水害から守る神様
「蛇ない」では、わらでなわれた大蛇に1升の酒を飲ませる=丹波市山南町応地
「蛇ない」では、わらでなわれた大蛇に1升の酒を飲ませる=丹波市山南町応地

 再び、応地の「蛇ない」。住民の手で2時間ほどかけてない上げられた大蛇の口に、保存会の徳岡寛会長(66)がお神酒1升を飲ませた。大歳神社の境内でひと暴れした後、家々を巡る。訪問を受けた家人も蛇の口に酒瓶をかませてささげる。子どもは泣いて怖がるが、蛇が暴れれば暴れるほど、その年は豊作になると言い伝えられてきた。

 「村を水害から守ってくれる大蛇は神様みたいなもん」と徳岡会長。練り歩いた大蛇は、川では感謝の気持ちを込めて水を飲ませ、最後は神社近くの2本の松に掛けられる。清流の恵みと洪水を受けてきた応地を見守るその姿は、上久下のそこかしこで町の繁栄を祈る丹波竜の姿と重なって見えた。

(記事・金 慶順、写真・斎藤雅志、大山伸一郎)

【篠山層群】
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 兵庫県丹波市と篠山市の南北約6キロ、東西約18キロに広がる中生代白亜紀前期、約1億1千万年前の地層。2006年8月に丹波竜が発見された後も、国内最古級の哺乳類「ササヤマミロス・カワイイ」、二足歩行の肉食恐竜・獣脚類の卵化石「ニッポノウーリサス・ラモーサス」など、数々の貴重な化石が見つかっている。

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