被災者アンケート
震災から三年。復興の一つの区切りの時期が訪れたが、道はなお険しい。住宅再建を果たす人が増える一方で、住んでいた街に戻るめどが立たず、離れていく人も多い。神戸市東灘、須磨区の激甚被災地では、落ち着ける住まいを求めて苦闘する被災者がまだまだ多かった。
■戻るめど 戻っても… 借家の6割 困難のまま
震災前に住んでいた家に戻るめどが立たない人は「断念」を含めて、持ち家の約四割、借家の六割余りに上る。
一年前と比較すると、持ち家の人は再建を果たした割合が増えたが、借家では、「戻った」「めどが立った」を合わせた割合は前年からほぼ横ばい。元の場所での住まい確保は頭打ち状態にある。
戻れない理由は、持ち家の人は「都市計画」を挙げる人が多く、「資金問題」「高齢」が続く。借家の場合は「家主が再建しない」が半数以上だった。
区画整理事業の網がかかっている神戸市須磨区千歳地区では事業の遅れに対する不満が強い。神戸市垂水区の仮設に住む70歳以上の男性は「換地先が決まらないため自宅再建めどが立たない」、長女一家と暮らす60代の女性は「市に協力して減歩され、固定資産税を払いながら再建をじっと待つだけ。親子一緒に早く元の家に戻りたい」と訴える。
持ち家を再建した人にも経済的な課題が残る。「蓄えがなくなった」と答えた人が半数を超え、「ローン負担が大きい」が四割近くで、二重ローンも一割に達した。
神戸市東灘区の50代の女性は新築の自宅と店舗が全壊、再建したが「この年になって二重ローンを組み、毎月二十数万円の返済。店の仕事も半分に減り、不安な毎日」。神戸市須磨区の70歳以上の男性は全壊した自宅を長男のローンで再建したが「長男が一時失業し、契約社員に。返済の見通しが暗く、このままでは自宅を売らなければならない」と切実な声を寄せた。
■住まいの変化 7割 恒久住宅入り 仮設は徐々に減少へ
震災後、被災者の住まいは大きく変化したが、三年を迎える現時点では、震災前と「同じ家」「同じ場所で再建」「別の場所で再建」は合わせて五二%。「民間賃貸」「公営住宅」を含めると恒久住宅に移った人は七割を超えた。
「仮設住宅」は一年後の二一%をピークに徐々に減少している。避難の大きな受け皿となった親類・知人宅は減少傾向にあるが、この一年間はほぼ横ばい状態。高齢者の場合、そのまま子どもなどの家に同居を続けざるを得ないケースもみられる。
回答者の中には安住の地を求めて何度も引っ越した人が少なくない。
神戸市東灘区の民間賃貸住宅で被災した50代の女性は四回の転居の末、西宮市の被災者向け公団住宅に入居した。しかし、建て替え計画を入居後に知り、家賃値上げが心配だ。「わらをもつかむ思いで入居したのに、家賃が上がればとても住み続けられない。いつまでも震災が付きまとっているような気分」と訴える。
神戸市須磨区で借家が全焼した40代の女性は「足の悪い母と二人、妹の会社の社宅に無理に置いてもらっている。失業中の私に民間賃貸はとても無理で、いまだに家が決まらない」と仮住まいの不安をつづっていた。
■家族の形 3割で人数が変化 離れ離れのままも
肉親が犠牲になった人をはじめ、震災は家族の形にも大きな影響を与えた。
三年間で家族が「増えた」は一割、「減った」は二割。計三割で家族の人数が変化した。同居や別居を経験した家族は多い。
「コンテナハウスに住んでいるが狭いため両親は市外の親類宅に別居」(神戸市須磨区・50代男性)
「再建を機に長男夫婦と同居」(神戸市東灘区・50代男性)など、住宅問題が原因のケースが目立つ。
震災後、生計が立たず家族が離れ離れになったままの人も。神戸市垂水区の仮設で一人暮らしの50代の男性は「失業中で、妻と子供三人は東北の妻の実家に世話になっている」。同じく失業中の男性は「妻と娘は徳島県の町営住宅に、私は大阪の姉と同居」と回答した。
■今後どうする 公営住宅に希望託し…
元の場所に戻るめどが立たない人の多くは、公営住宅入居に希望を託す。
持ち家の人は約二割が「再建」をあきらめていないが、「公営住宅入居」の希望者はその倍近い四割を占めた。借家だった人は、「公営住宅入居」が約六割、「民間賃貸住宅」は二割だった。
公営住宅希望者に住宅募集にはずれた場合の対応を聞いたところ、六割が「あくまで希望場所にこだわって申し込みを続ける」と回答。「元の場所の近く」の思いは根強かった。
住宅対策の希望では「再建のための直接資金支給」「低利融資の拡充」がともに三割余りで多く、続いて「公営住宅の建設戸数の増加」「以前住んでいた近くでの公営住宅建設」が一割台だった。
調査概要
「震災3年・被災者アンケート」は、神戸市須磨区・千歳地区、神戸市東灘区・深江地区の2カ所で実施し、震災前に居住していた各750世帯を対象に調査用紙を郵送した。
千歳地区は、小規模な住宅やケミカルシューズ関連の町工場、飲食店などが密集していた下町。震災後、火災に襲われ、9割の世帯が全焼・全壊した。土地区画整理事業の対象地域。
深江地区は東灘南部でマンションなど共同住宅が多いが、商店も集まる。全半壊が4割以上で、259人が死亡した。神戸市の重点復興地域。
1998/1/14