一日一食、夕方に届くその弁当だけで暮らすお年寄りがいる。一つの弁当を二人で分け合う老夫婦もいる。
「だから、できるだけ栄養を詰め込む」と中道せつ子さん(67)は言う。週六回メニューは毎日変える。おかずとご飯の二段重ね、配達料込みで六百五十円。それをスクーターに積み、三十世帯に配る。
午後四時にスタートして、約三時間がかり。時間が延びるのは、先々で話し込んでしまうからだ。元は看護婦。「ここが痛い」と相談されることもある。
高齢者や障害者を対象に配食サービスを始めて十一年。「訪問看護で初めて見た風景が忘れられない」と言う。インスタント食品や残り物で生活をつなぐ高齢者たち。体が不自由で買い物さえ一苦労なのだ。弁当の値段はずっと据え置きだから、やりくりも火の車。赤字に貯金もつぎ込んだ。
「何度もやめようと思いました。でもね…」。またあの日を思い出す。
「給食サービス、休止させていただきます」。神戸市北区鈴蘭台のミニコミにお知らせを出したのは五月。途端に事務所兼厨房(ちゅうぼう)のアパートで電話が鳴った。「これからどうすれば…。もう家では暮らせない」。声は消え入りそうだった。「もう少し頑張ってみます」。最後はそう言っていた。
「神戸市の助成? そりゃ最初は申請も考えたけど…」と続ける。
食事を提供する対象は六十五歳以上で、助成も週二回分。「わずかなおカネで活動が縛られるようで…」。踏ん張りで、行き着く所まで行くしかなかった。
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中道さんが話す「ふれあい給食助成」は八〇年に始まり、自治会など二百団体が受ける。高齢者の顔合わせが原則で、月一、二回、福祉センターに招き食事を提供するケースが多い。各戸配食は想定になく、助成団体からも疑問は出る。
「助成は週二回までなんて、活動の盛り上がりをそぐようなもの」
ふれあい給食をきっかけに週一回の配食をする須磨区の月見山自治会は、週三回への拡大を模索するが、助成の上限がネックになる。
「宅配に行ってみて実情が分かった。週三回は命をつなぐ最低ライン。食欲で健康状態も分かるのに」と話すメンバーは、介護保険が国会で審議される時代と市の福祉の落差がわからない。
シルバーハイツなどに「生活支援型配食」を始めた市だが、「あくまでモデル事業。健康や衛生にもかかわる配食は助成ではなく業務委託で」と態度は硬い。
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施設から在宅へ。二〇〇〇年の介護保険導入が取りざたされ、在宅福祉サービスの供給は確実に不足すると言われる。
とりわけ神戸では震災後、需要が急増。二十二日厚生省が発表した九五年度の老人保健福祉マップでは、ショートステイの利用が震災特例の定員緩和で一位となったものの、一方でホームヘルパー利用は四十位と、いびつさを見せる。
市も二月、福祉総合計画を発表。各種在宅福祉サービスの増強を打ち出したが、旧市街地に少ない施設など、制度の「使いにくさ」や「質」の背景に福祉関係者の一部は「効率主義」を指摘。「計画も数合わせになりかねない」と懸念する。
財政難とのバランス・という綱渡りを強いられる神戸の福祉。「在宅福祉には民間の社会福祉法人などとの協力が欠かせない」。市は「民」との連携を強調するが、草の根の踏ん張りを生かし切れるかどうかが、真の効率を占う一つの分かれ目とも言える。
1997/9/26