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(8-1)薄れる国の姿勢に危機感 復興本部が2月でなくなる
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 国の来年度概算要求に向けての準備が始まった七月、笹山幸俊神戸市長は十四項目の要望の中に、「これだけは必ず取る」と決意した最重要課題を入れた。

 災害公営住宅などに住む被災者を支援する「特別家賃低減対策補助」。震災の翌年、住む家を失った低所得者向けに導入された支援策の一つである。

 最低ランクで約二万円の家賃を六千円に引き下げる。差額は国と自治体が補助する。被災者の適用年度で異なるが、最も早い人で五年目の二〇〇一年に最終期限がくる。

 「何としても継続を」。強く望む担当者から、切れると深刻な事態になるという危機感が見えた。

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 例えば、神戸市東灘区の市営住宅に住む女性(75)。

 震災で家も仕事も失い、仮設暮らしの後、二年前の五月に移り住んだ。一人暮らしで、収入は月三万円の年金だけ。家賃二万七千八百円が、七千九百円に引き下げられた。だが、約三年後には正規の家賃に戻る。友人から生活保護をすすめられるが、「そうすれば、今まで頑張ってきたことが、何にもならなくなる」と、不安げに話した。

 同じような境遇で補助を受けているのは九九年度、神戸市営で一万一千世帯、県営で一万七千世帯。

 「いずれは被災者の負担になるが、対象の七割は高齢者。収入が増える見込みもなく、事情は厳しい」。神戸市住宅局で担当する前田芳孝さんが話した。

 国の補助が切れ、自治体が差額を負担するとなると、神戸市だけで年間約五十億円にもなる。市の台所を考えると、自治体だけで負担できないという。

 神戸市は九月にもあらためて国の「阪神・淡路復興対策本部」へ出向き、制度の継続を訴える。「本部がなくなる来年二月までに、何とか道筋をつけたい」

 「その日」を半年後に控えて、焦りの色が見えた。

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 一九九五年二月、震災復興を国と被災自治体が共同して進めるとしてできた復興基本法に基づき、首相を本部長にした復興対策本部が設置された。

 本部を一つの窓口に、復興事業が進んできた。五年の時限立法のため、来年二月でその期限が切れ、復興本部は解散する。予算措置は震災前と同様、各省庁個別でということになる。となれば、復興特定事業など、国を挙げての復興推進の姿勢が薄れるのではないか。そんな危ぐを抱くからだ。

 県・市は、本部解散後も国に何らかの窓口を求めるという。従来の国と自治体との関係では、進む事業も進まない。長い経験からくる、そんな思いがにじみ出ている。

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 私たちは、このシリーズで、復興の過程でぶつかった「法の壁」を見てきた。特別立法や支援策はあったが、都市災害の実態に合わない法がそのまま運用され、効力を発揮しなかったという現実を見てきた。生活再建支援法のように、国を動かす困難さも身にしみて感じてきた。

 災害のたびに法改正が繰り返される。「規模も状況も違う災害には、どうとでも読める今の救助法がよい」という声が国から聞こえてくるが、震災を教訓に、災害救助法の抜本的改正を主張する法学者もいる。

 それより、関西学院大学の真砂泰輔教授は「震災で露呈したのは、日常の生活にかかわる法がいかにずさんだったか。普段から、安全で安心な生活ができる法体系があれば、特別法は少なくて済む」と指摘した。

(社会部・長沼隆之、小西博美、磯辺康子)=第22部おわり=

1999/8/27
 

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