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(3)支援はほとんど特例で 国に何度も突っぱねられた
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 「阪神・淡路震災復興特別措置法」
 被災地の復興に国が責任を持って支援する旨をうたった、幻の法律である。

 震災から一カ月後。かつてない都市災害に見舞われた被災地を再建するには、既存法では対応できず、国を挙げて取り組む法制化が欠かせない。兵庫県は国にそう迫ったが、結局、実現しなかった。

 なぜだったのか。私たちの疑問に当時、政府の阪神・淡路復興委員会委員長だった下河辺淳氏が答えた。

 「素案を即刻つくるよう催促したら、出てきたものは、国に支援を求める漠然とした訓示規定ばかり。具体的なビジョンがなかった。時間もなく、それなら既存の法律で十分対応できる、と判断した」

    ◆

 復興特別法。戦後唯一、本土復帰時の沖縄の振興で一九七一年、立法化された。県は、これを手本に現状復帰にとどまらず、「創造的復興」まで国は責任を持つべきと考えた。期間は十年とした。

 だが、下河辺氏の言葉通り、国の復興支援はほとんど現行法の特例措置で進んだ。法律を作るのは中央、一地方の要請だけで国は動かない、という官僚国家日本の構図からなのか。

 当時、副知事でその後、参院議員を務めた芦尾長司氏(現みなと銀行会長)が、省庁を駆け回ったころを振り返るように言った。

 「マイナスをゼロに戻す復旧には国も異論はない。だが、プラスにする復興はどこまで、との議論になる。立法は国民のコンセンサスが前提。特別法は、そこまでいってなかった」

    ◆

 壁にぶつかったのは、特別法だけではなかった。
 完全にマヒした経済機能への危機感から、自治体や経済界が税の優遇と規制緩和で新産業誘致にかけた「エンタープライズゾーン」(企業自由地域)構想も、その一つだった。これも「産業は民主体が大前提。特定地域に、特別な支援はしない」と突っぱねられた。舞台の神戸・ポートアイランド2期には今も、新産業どころか、企業立地も進んでいない。

 震災直後、復興本部の設置法や租税の減免、公債発行特例など、十六の特別立法ができた。国による財政補助、大量の赤字国債発行など復旧に一定の役割を果たした法もあるが、被災市街地復興特別措置法のように、十分に生かされなかった法律もある。自衛隊法や災害対策基本法などが改正されたが、特別立法以降、新たに作られたのは、被災者生活再建支援法だけだった。それも、国の抵抗が続き、全国知事会でも負担割合をめぐって最後までもつれる難産の末の結果だった。

    ◆ 

 それから四年七カ月。
 県復興推進課は「インフラ、住宅、産業の緊急三カ年計画は三年でほぼ達成した」とするが、不況で経済は低迷、雇用不安が広がり、生活再建に格差が残る。

 「むしろ、問題はこれからです」。特別法の素案を作成した井筒紳一郎・県首席審議員が、五年後の姿に表情を曇らせる。「特別法ができていれば、日本の災害法体系にとって画期的なことだったが…」と。

 法制化をめぐる国と被災地との関係について、神戸大学法学部の阿部泰隆教授が指摘した。
 「英米など地方分権の進んでいる国では、地方にぽんと金を渡して自由に使えという包括補助金の仕組みがある。しかし、日本の地方分権は制度や発想がそこまでいっていない。それが特別法が成立しなかった一因だろう」
 どこか、立法以前の問題があるように見える。

1999/8/20
 

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