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(6)権利保護に時代とずれ 地主も借家人も被災者だった
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 阪神・淡路大震災の翌月、一本の法律が被災地に適用された。

 「罹災(りさい)都市借地借家臨時処理法(罹災都市法)」。被災した借家人が、再建された元の借家に戻れる「優先的借家権」、地主が再建しない場合、借家人が優先的に土地を借りて再建できる「優先的借地権」などを認めている。この申し入れを、地主は正当な理由なく拒否できない。借家人の権利保護をうたった法律である。

 制定は一九四六年。関東大震災後に成立した法を起源に、終戦後の焼け野原で効力を発揮したとされる。その後、福井地震、山形県酒田市の大火など、三十五の災害に適用された。大都市災害の被災地への適用は、初めてだった。

 だが、阪神・淡路では一定の評価をする声がある一方で、課題が浮き彫りになった。

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 尼崎市内で長い間、借家住まいをしていた男性(65)から話を聞いた。

 長屋には、二十世帯が住んでいた。震災で半壊し、八世帯が転出。男性は住み続けたが、建て替えを計画する家主から立ち退きを迫られた。しかし、立ち退き料で折り合いがつかず、調停に持ち込んだ。結局、立ち退き料を上積みして和解。借家人保護の法からは、何の恩恵も受けなかった。

 「金をもらって出て行く。それでいいのか」。男性は、今も疑問に思っている。

 同じような調停や訴訟は震災以降、被災地で相次いだ。震災関連の民事紛争は、神戸地裁・同簡裁だけで、九七年度末までに調停二千四百件、訴訟約五百件。大半が借地借家関係だ。

 もともと、一戸建ての借家を想定した同法の成立時とは時代が違い、借地権を設定するにも今は市場価格が高い。高齢者や低所得者には手が届かない。マンションなど集合住宅も増えた。戦後間もない法律では、複雑な権利関係などに対処できなくなっていた。

 結果、ほとんどが当事者同士のお金のやり取りで決着した。

 窮状は、地主も同じだった。「同じ被災者なのに、借家人の権利保護ばかり優先される。なぜ私たち地主が犠牲になるのか」。悲痛な訴えを何度も聞いた神戸の丸山富夫弁護士は「国はそれに頼っているだけ」と指摘した。

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 被災地では今なお、借家人がもといた地域に戻れず、地主らも再建話がスムーズに進まないという状態が続く。震災直後に結成された尼崎市の「尼崎借地借家人組合」には、立ち退きや家賃値上げに関する相談に訪れる人が後を絶たない。

 事務局長の田中祥晃さんは「問題は法律より、貧困な住宅政策。公的支援も不十分だし、結果的には借家人は罹災都市法で守れなかった」と話した。

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 建設省住宅政策課に、法律適用の是非を尋ねた。「災害時の権利調整に関する法律はほかになく、その目的や、これまでの運用状況からみて妥当と判断した」と答えが返ってきた。

 震災後、法務省に「震災問題研究会」ができ、同法改正へ動きを見せたが、二年前の中間報告の後、研究会は開かれていない。

 古くからの長屋やアパートに被害が集中した大震災。法は、そればかりか、今の住環境にも対応できない欠陥性を露呈した。

 委員の一人で、神戸大法学部の安永正昭教授(民法)が警告した。

 「災害時の権利調整へ、時代に合った形に早急に改めるべきだ。次の大災害が起きてからでは遅い」

1999/8/25
 

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