立ち入り禁止個所を示す工事のフェンスが、ハイヒールの陳列棚になっていた。神戸一の盛り場、東門街。フェンスの背後は小さな更地。地震でつぶれた靴店が、意地で始めた露店だった。ほこりっぽい街中で、靴の色がとても華やかだった。入社したてでモノクロフィルムしか使っていなかったのだが…。
東門街は、地震で七割の建物が傾いた。四月に入り、少しずつネオンが戻ってきたが、街の生気は失われたままだった。
「商店街を少しでも明るくしたかった」と、ダイヤ靴店主の岸田太(とおる)さん(62)。顧客はスナックのママやホステス。粋な靴をずらりと並べ、「地震に負けずにやってるよ」と伝えたかった。
露天の“ショーウインドー”は話題を呼んだ。なじみは「がんばって」と声をかけてくれた。靴は予想以上に売れた。翌年末には店舗を再建。しかし景気は戻らず、売り上げは今も、地震前の半分ほどにすぎない。
「あんな時やから、あんな状態でも商売ができたんでしょうね」。
苦闘は今も続いている。(写真部・中西大二)
2004/1/19