「これは難しくなりそうだ」。二〇〇二年春、神戸市に出向を命じられた日本郵船の榊原宏さんは、長年の船舶貨物の営業経験から直感した。
市での所属は、この年四月に発足した「神戸港ポートセールスチーム」。企業からの出向三人を含む十二人で構成し、貨物や航路の誘致に取り組む。低迷する神戸港の復権を期し、市が「民間の情報収集力や人脈を生かしたい」と発案した。
チームは三年足らずで約五千社を訪れたが、榊原さんの直感は的中した。「具体的な成果が見えづらい」(中村光男・市みなと総局誘致推進課長)仕事だからだ。
どの港を使うかは荷主と船会社など当事者間で決めること。行政が関与できる余地は限られていた。榊原さんは「もどかしいほど、難しい」とあらためて実感する。
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だが長い目で見れば、チームの取り組みは大きな財産となった。企業を何度も訪れるうち、神戸港に何を求めどう解決すべきか、本音で話し合える関係が築けたからだ。
懐に入れるようになると、数年後をにらんだ事業展望も見渡せる。民間出身のスタッフなら、神戸港を使った効率的な輸出入計画も提案できる。
「腰をすえて誘致に取り組む土台ができた。港湾の利用コストや、民間ベースで解決すべきことも多いが、成果はこれからです」。榊原さんは、少しずつ手応えをつかみ始めた。
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チーム結成から二年後の〇四年四月。港の強みを磨く、民間の取り組みも始まった。港湾関連五団体などでつくる「神戸港新生プロジェクト」。初代委員長を務めた久保昌三・上組社長は発足時、「全く新しい感覚で、思い切った改革を」と意気込みを見せた。
専門委員を務める津守貴之・岡山大経済学部助教授は、「在来貨物」に注目した。大型でコンテナに収まらないプラントや産業機械、鉄道車両、建設機械などのことだ。
こうした貨物の荷役やこん包にかけては、技術も人材も神戸は他港を圧倒する。開港以来、継承してきた歴史の蓄積。強みは、足元にあった。
台湾を新幹線が走り、中東や欧米の開発に日本の建設機械やプラントが使われる。日本経済をけん引する輸出製品は、コンテナ貨物ばかりではない。
「在来貨物もコンテナも扱える総合港。国内にこんな港はほかにない。新しいビジネスモデルを構築できる」。津守助教授は、確信する。
2005/2/6