老いも若きも、男も女も。見る者は一様に携帯電話のカメラを向ける。
10月、JR新長田駅南地区の若松公園(神戸市長田区)に、震災復興のシンボルが誕生した。原寸大の体長18メートル、重さ50トン。戦後間もない神戸で漫画家の故横山光輝さんが描き始め、多くの少年少女をとりこにしたヒーロー「鉄人28号」である。
<ビルのまちにガオー>。主題歌の歌詞そのままに、復興再開発ビル群に向かって、ぐっと右手を突き出す。子どもが、大人が、そのポーズをまね、記念撮影を楽しむ。
総工費は約1億3500万円。完成まで4年越しの難事業だった。商店主らでつくるNPO法人「KOBE鉄人プロジェクト」理事長の正岡健二さん(61)は次をにらむ。
「見物客は年内には100万人に迫る勢いだ。ブームに終わらせず、『見物』から『顧客』につなげたい」
震災からきょうで14年11カ月。まちづくりはなお途上にある。正岡さんらは“鉄人効果”を広げようと、横山さんの作品「三国志」も活用するなど知恵を絞る。
鉄人は、神戸市長田区の「住民」になった。戦災の焼け野原で生まれ、復興の街に元気をくれるヒーロー。この地ほどそのすみかにふさわしい場所はないだろう。
(長沼隆之)=おわり=
2009/12/17