この辺りは水と電気が止まって。給水車を待つ傍ら、母と近くのわき水をくみました。寒かったけれど、必死でした。
震災前から、小鳥が水飲み場にしているのを知っていたんです。幅30センチほど。浅く、プリンの容器ぐらいでしかすくえませんでしたが、ありがたかった。一杯でも貴重でしたからね。洗い物に使わせてもらいました。
人の列に驚いたのか、小鳥の姿はなくて。横取りしたみたいで心苦しかった。わき水は5年ほど前にコンクリートで埋められましたが、今も通る度に思い出します。
母は、倒れてきたタンスで頭を7針縫うけがをしました。あのころは、この絵のように力強い手をしていましたが、92歳と高齢になり、2年前に脳こうそくで倒れました。話すことも食べることもできず、わたしは震災後に就いたデザインの仕事をやめて介護に専念しています。
復興した神戸を見ると「きれいだな」と思う半面、さみしさを覚えます。知っていた場所じゃない感じがする。でも、若い世代はこの街並みしか知らない。これが神戸、これがスタート。若者がつくる未来に期待しているから。このごろ子どもを見かけると、今まで以上にいとおしく思えるんです。(聞き手・平井麻衣子)
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「震災の絵」展は2010年1月17~30日、神戸市中央区の兵庫県立美術館で開く。
2010/1/6