阪急夙川駅の線路沿いに住んでいます。激しい揺れとともに襲ってきたのはごう音。高架が橋脚ごと崩れ、曲がったレールと敷石が落ちてきたのです。これほど頑丈なものが壊れるなんて、信じられませんでした。周りの木造家屋のほとんどは倒れ、町内で27人が亡くなりました。
住宅でも線路でも、わたしたちは普段縦横の直線の中に暮らしています。それが一瞬で、斜線と曲線の景色に変わった。駅の復旧作業は半年ほど続きましたが、工事のすさまじい振動や騒音、粉じんに、震災時の恐怖を引きずる思いでした。
勤務先は大阪市内。帽子にリュックサック、スニーカーで通い、会社で背広に着替えましたが、事情を知らない人にはなかなかわかってもらえなくて。少しの距離なのに、街も行き交う人もまったくの別世界。その差にがくぜんとしました。
この場所で戦争を体験し、昭和30年ごろには、トラックと衝突した電車が脱線する事故を見ました。そして震災。街が壊れるさまを身をもって知っているからこそ、今の平穏な日常がいつまでも続くようにと願います。
それでも、ふとした音や振動に「あのとき」がよみがえる。小さな後遺症として、ずっと続くのでしょうね。(聞き手・平井麻衣子)
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「震災の絵」展は2010年1月17~30日、神戸市中央区の兵庫県立美術館で開く。
2010/1/9