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(3)防災の根本 「人のやる気引き出す」
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防災は考え、動くこと。自らの説を体現するように、瀧本さん(中央)は全国を駆け回る=島根県大田市(撮影・大山伸一郎)
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防災は考え、動くこと。自らの説を体現するように、瀧本さん(中央)は全国を駆け回る=島根県大田市(撮影・大山伸一郎)

防災は考え、動くこと。自らの説を体現するように、瀧本さん(中央)は全国を駆け回る=島根県大田市(撮影・大山伸一郎)

防災は考え、動くこと。自らの説を体現するように、瀧本さん(中央)は全国を駆け回る=島根県大田市(撮影・大山伸一郎)

 山口大学大学院准教授の瀧本浩一さん(45)が防災を研究テーマにして20年になる。最初は「何の分野の研究か」と聞かれることもあったが、1995年の阪神・淡路大震災を機に、取り巻く環境が一気に変わった。

 全国から研修や講演の依頼が舞い込む。年間約50カ所を回って、ハザードマップの作成や家具の固定などを訴える。その結果、確かに防災知識は広まった。しかし…。

 ある研修会で豪雨の対応について質問が飛んだ。「答えはテキストのどこに書いてありますか」。もちろん答えなど載っていない。

 地元山口県などで実施したアンケートでは「どうすれば地域の付き合いが深まるのか」「研修を受けたが、何をすべきか分からない」などの声が多く寄せられた。

 防災の基本について、こう考える。地域によって様相の違う災害をどうとらえ、動くか。知識は必要だが、考え、行動しなくては意味がない。

 瀧本さんは悩んだ。「包丁の使い方ばかり習っても、腕のいい板前にはなれない」と痛感した。

    ◆

 一つの出会いで、視界がさっと開ける。

 6年前、山口県での防災の講演会に呼ばれたとき、同じ講師の中に淡路島の旧北淡町職員、富永登志也さん(53)がいた。

 「人口1万人ちょっとの小さな町が大きな災害に遭いました」。壇上で富永さんが震災の体験を語り始めた。

 「全国からたくさんの救援物資が届き、ボランティアが来てくれました。本当にうれしかった。そのお礼のつもりで話をして回っています」。感謝の言葉を口にしながら富永さんが声を詰まらせる。その姿に、聞き入っていた参加者が目を潤ませた。

 被災地の困難な状況を語る。同時にそれをどう乗り越えてきたのかを丁寧に伝える。「こんなことがありました」。困ったこと、苦しんだこと。そしてみんなで分かち合ったこと。喜び合ったこと。

 富永さんの感情に聞き手の気持ちが重なる。つらい、うれしい、ありがとう。話が進むにつれ、北淡の光景と自分の住む町がだぶる。そして何かしなくては、という気持ちにさせられる。

 「富永さんの話は、聞く者を『よし、やろう』と思わせる。防災の根本は人のやる気。それを引き出す力がある」

 瀧本さんは企画した防災講座の講師を富永さんに頼んだ。「腕のいい板前」を育てる。今、その手応えを感じている。

    ◆

 震源地の風に勇気づけられ、実際に災害に立ち向かった町がある。次回は鳥取の話を届けたい。(宮本万里子)

2011/1/14
 

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