「昼に白いご飯食べるの、久しぶりや」。神戸市中央区の復興住宅「HAT神戸脇の浜」。77歳の男性が親子丼を一気にかき込んだ。「いっつもカップラーメン。100円で売ってる店知ってるから」
昨年12月25日、地元のボランティア団体「ひょうご福祉ネットワーク」が住宅の集会所で開いた生活相談会。炊事場を借りて調理した約100食分はほとんどはけた。「帰って食べる」と鍋を持参した人もいた。
「貧困と食の問題。これが16年たった復興住宅の現実です」。メンバーの大橋豊さん(80)は言う。
弁護士や看護師も参加する生活相談会は、震災半年後に始まった。今も月1回、市内の復興住宅を巡回する。16年目、ほそぼそながら相談件数は延べ2千件を超えた。食事を振る舞うのは仮設住宅の炊き出しが起源だ。「食事だけ」の訪問者は相談者の何倍か分からない。
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「待ってました」-。お年寄りの想像以上の喜びように、枝光フサ子さん(64)は恐縮していた。12月、尼崎市神崎町の復興住宅に、北川隆子さん(67)と手作りのお弁当を届けた。
雑誌「婦人之友」の愛読者でつくる「西宮友の会」が毎週木曜、この住宅に食事を届けるようになって13年になる。被災者の健康を祈る1食300円の「復興弁当」。希望者だけのわずか6食分だが、約330人の会員が交代で作る。
当番の枝光さんら5人は朝、西宮市の北川さんのマンションに集まった。だし巻き卵、牛肉のしぐれ煮、小松菜とシメジのからしあえ…。栄養バランスを考え、それぞれ持ち寄った9品を弁当箱に詰めた。
「ほんまに楽しみ。店で買ったおかずは味気なくて」。到着を待っていた田畑耕作さん(67)が相好を崩す。すぐ近くに大きなスーパーがあるが勝手が分からず、震災前住んでいた街までバスで買い物に出かける高齢者もいる。
「もっと増やしてもらえたらありがたい」。田畑さんに限らず、配食ボランティアに頼る高齢者の願いは切実だ。
一方、支える側にも16年の歳月は重くのしかかる。
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神戸市中央区の「ひょうご福祉ネットワーク」の事務所。「このままでは、事務所を閉じんとあかん」。大橋さんはため息をつく。
巡回相談を知らせるビラ約1万枚、用意するご飯500食以上…と、活動費は年約135万円。設立当初に集まった大口のカンパは底をつきつつあり、今は助成金で踏ん張っている。事務所の家賃負担がなくなれば楽になるが、拠点がないと活動もしにくい。
ボランティアの高齢化も進む。それでも、野菜やお米を持って復興住宅へ行く。相談で最も多いのは「健康」で、「生活保護の受給」が続く。「必要としている人がいる限り、だれかが続けないと」
元日、大橋さんは再びHAT神戸に、この日が92歳の誕生日という一人暮らしのおばあさんを訪ねた。出会いは、「銭湯代も切り詰めている」という相談だった。今は生活保護と配食サービスを受ける。ケーキにろうそく9本。「ふーっ」と吹き消したおばあさんの目から涙がこぼれた。(岸本達也)
2011/1/13