災害が起こったとき、あなたの部屋にかけつけてくれそうな人はいますか-。
清水建設と神戸大学などが3年前、京阪神と首都圏のマンション住民約2700人に行ったアンケート。「いる」との回答は4人に1人にとどまり、約半数が「いない」、残りは「分からない」と答えた。
わずらわしい近所付き合いもない、自由気ままなマンション暮らし。「そんなイメージはもう時代遅れ」。兵庫県明石市川崎町、「ファミールハイツ明石」(600戸)自治会長の後藤和弘さん(78)はきっぱり言う。目指すのは人間関係の密な「すごいマンション」だと。
昨年3月、夫の転勤に合わせ、1歳の長男と東京からファミールハイツに引っ越してきた主婦荒木優子さん(39)は思う。「まるで、昔の『村』のよう」。入居直後、自治会の会報に部屋番号と名前が載った。「そんなこと、初めてだった」
盆踊りに秋祭り…と次々あるマンション行事に最初は驚いたものの、半年後には焼いたお菓子を文化祭で売っていた。「こんなにお付き合いがあるところなら、自分も輪に入っていった方がいいと思って」と振り返る荒木さんに、後藤さんが「次は自治会の役員、やってね」と声をかけた。
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22年前に入居が始まったファミールハイツ。衣服販売会社を営む後藤さんは、駅に近いという利便性にひかれ、別のマンションから夫婦で転居してきた。
「当初は子どもが多くてにぎやかだった」と語る。そのとき、ふと考えた。みんな学校を出たら、ここから出て行くだろう。いつでも帰ってきたくなるような、魅力ある「ふるさと」にしたい、と。
同じ思いの住民たちが、手作りのみこしで地域の祭りに参加した。女性ばかりの「ギャルみこし」チームもできた。住民がつくった「ファミール音頭」に「ファミールサンバ」。最大の自慢はクリスマスの時期、高さ約40メートルからつり下ろす電飾ツリーだ。
行事のたび、顔見知りが増えた。結束ぶりを発揮したのが、阪神・淡路大震災。エレベーター内に住民が閉じ込められたが、119番も通じない。扉をこじ開け、暗闇の中へと突入したのは、消防でも警察でもなく、住民たちだった。
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兵庫県内では2008年、マンションなどの共同住宅が100万戸を突破した。25年前の倍に増え、一戸建ての109万戸に迫る。一方、住民の高齢化と単身世帯の増加は新たな課題を生む。
後藤さんも4年前、ひやっとしたことがある。80歳近い男性が自室で倒れた。異変に気付いた住民がかけつけたが、鍵がかかって開かない。男性がなんとか自力で玄関まで出てきて助かったが、危機感は募った。
昨年、自治会に高齢者の見守りボランティアチームができた。ゴミ出し、部屋の電球の付け替え、買い物…。お年寄りが発する小さな「SOS」をキャッチし支え合う。ボランティアには25人が名乗りをあげた。
「安全への負担は、割り勘で」と口酸っぱく言い続けてきた後藤さん。その達成度は?「まだ7割ぐらいかな」。すごいマンションを目指す自己採点は辛かった。(岸本達也)
2011/1/16