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(7)強い町 まずは「公園デビュー」
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「助け合って、命を守ろうね」。防災訓練で子どもたちに語りかける犬飼好子さん=神戸市西区、高津橋小(撮影・山崎 竜)
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「助け合って、命を守ろうね」。防災訓練で子どもたちに語りかける犬飼好子さん=神戸市西区、高津橋小(撮影・山崎 竜)

「助け合って、命を守ろうね」。防災訓練で子どもたちに語りかける犬飼好子さん=神戸市西区、高津橋小(撮影・山崎 竜)

「助け合って、命を守ろうね」。防災訓練で子どもたちに語りかける犬飼好子さん=神戸市西区、高津橋小(撮影・山崎 竜)

 「友達を大事にね。近所の人にはあいさつをしましょう」

 今月13日、神戸市西区の市立高津橋小学校であった防災訓練で、犬飼好子さん(68)が4年生の児童たちに優しく語りかけた。

 犬飼さんは、4年前から校区内にある西裏自治会の会長を務める。順番で回ってきた自治会長だったが、「どうせやるなら」と応急手当てを指導できる救急インストラクター、防災知識を持つ防災士の資格をとった。この日は、心肺蘇生のやり方を教え、防災の心得を説いた。

 「人とのつながりがあれば、いざというときも大丈夫」「防災訓練があったら、みんなも参加してね」。何度も伝えたのは助け合うことの大切さだ。

 「周囲から見たら変わってる人かも。でも、あんな体験をしてしまった以上、じっとしておれないの」。犬飼さんは、夫のことを話してくれた。

    ◆

 震災前は同市長田区神楽町に住んでいた。文字彫刻の仕事をしていた夫の隆さん=当時(52)=はあの日、自宅隣のビルで夜勤のアルバイトをしていた。

 「父ちゃんっ」。全壊した自宅からはい出した犬飼さんだが、駆けつけたビルは1階部分が押しつぶされていた。遺体が収容されたのは5日後。「夫婦で伊勢旅行に行こう」と言ってくれた直後の別れだった。遺体が包まれた毛布に抱きついて泣いた。何度も頭をなでてあげた。

 「大丈夫か」。顔なじみが声をかけてくれた。「つらかったけれど、地域に支えられていた」と今思う。一緒にいた長男は、ほかに生き埋めになった人の救助活動に走り回った。

 居住地は土地区画整理事業が決まり、借地だった犬飼さんは引っ越しを決めた。早く生活を立て直したい。不動産屋で選んだのは、当時分譲が始まったばかりの新興住宅地だった。

    ◆

 「おはよう」。今月16日の早朝、前日に隆さんの十七回忌法要を済ませた犬飼さんは近くにある西裏公園の清掃活動に参加した。3年ほど前までは、大人の背丈に迫る草が茂っていた。「みんなでわいわいとやりたい。そのために公園をきれいにしようとなった」と副会長の蛯原正樹さん(63)。今ではだれでも使えるようになり、防災訓練の会場にもなっている。

 75世帯と小さいが、もともと知らない者同士。分譲から16年、第一世代が付き合いを始めておかないと、子どもたちに町を引き継げない。「まずは大人から『公園デビュー』です」。もう1人の副会長、土岐幸司さん(62)が言った。

 犬飼さんの思いは尽きない。「公園には、かまどを置いて災害に備えたい。日ごろはみんなが集まって、おしゃべりをして…」。そうなれば、何があっても乗り越えられる町になる。

 17日朝。夫と暮らした神楽町を訪ねた。集合住宅が建ち、すっかり景色は変わっていた。ここにもきっと、新たな住民たちによる新たなつながりが生まれつつあるのだろう。

 絆再生-。簡単なことではないけれど、それが「強い町」への第一歩。次に会える日まで頑張るからね。夫に声をかけた。(岸本達也)

=おわり=

2011/1/18
 

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