「TOUKAI(東海・倒壊)-0(ゼロ)」
日本で最も発生確率が高い東海地震の震源域にある静岡県が、2001年度に始めた木造住宅耐震化プロジェクトだ。
県内の既存不適格住宅は約28万棟(08年時点)。04年度からの10年間で約1万6千戸の改修工事を済ませた。兵庫県の5倍のペース。15年に耐震化率90%を目指す。
プロジェクトの要は、耐震化が必要な世帯の把握だ。市町や地域住民と協力して高齢者宅を何度も訪ね、工事の必要性や独自の優遇策を粘り強く訴える。
業界団体とも連携し、簡易の耐震診断ができる資格者3千人を登録。診断から改修工事まで一貫して対応できる仕組みをつくった。
「これまでの『呼びかけ方式』では進まない。地道な説得を積み重ねるしかない」
県建築安全推進課の平松勇人(いさと)(54)は言う。
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大阪府岸和田市は2010年、「耐震バンク」を設立した。住宅の耐震化に興味のある市民に、支援事業を優先的に知らせる全国初の取り組みだ。474人が登録し、診断から改修工事に踏み出す人が5倍に増えた。今も268人が工事を待つ。市建築指導課の松下英俊(49)は言う。
「耐震化に興味のある“お客さん”を離さない。民間の発想です」
きっかけは、市がつくった耐震改修促進計画(05~15年度)の中間検証。残り5年で耐震化率90%の目標を達成するには従来の2倍のペース、4100戸の上積みが必要と判明した。
「このままでは計画が絵に描いた餅になる」。住民アンケートを踏まえ、担当者が議論。対象者を、(1)耐震化の意志がある人(2)ない人(3)資金のある人(4)ない人-に分け、高齢世帯への補助金加算など、各対象に効果的な独自策を打ち出す。
戦略の基礎になるのは「重点地区」の抽出だ。固定資産税のデータを活用し、旧耐震住宅が100戸以上▽旧耐震住宅率が6割以上-の43地区をリストアップ。戸別訪問し、まずは耐震バンクへの登録を呼びかける。
「担当者の本気が住民に伝わると信じたい」
松下は力を込める。
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阪神・淡路大震災で、12万棟が全半壊した神戸市。急ピッチで建て替えが進んだが、9万4千戸(08年時点)の旧耐震住宅が残る。
耐震化目標は来年で90%。しかし、この10年で進んだ工事は1128戸にとどまる。
どの町に、どれだけの旧耐震住宅があるか。神戸市はまだ、正確なデータを把握していない。静岡県や岸和田市のように、実効性のある取り組みを進める自治体は全国でもごく一部だ。
神戸市耐震化推進室の重松裕幸(49)は厳しい表情で言った。
「市独自の補助など、手厚い支援策は整えている。だが、目標達成への道筋は描けていない」
=敬称略=
(木村信行)
2014/9/5