日本弁護士連合会(本部・東京)は2012年3月、こんな意見書を国に提出した。
〈今後の大震災に備えるための建築物の耐震化について〉。ポイントは3項目ある。
・旧耐震住宅は所有者に耐震診断を義務化
・診断の結果、安全基準を満たさない建物は改修か除去を義務付ける
・国と自治体は憲法29条の「正当な補償」として必要経費の3分の2を負担せよ
憲法29条は、財産権を保障する。意見書を起草した大阪弁護士会、平泉憲一(55)の危機感は強い。「今の施策では耐震化が進まず、次の巨大地震で数万人の犠牲が出るのは明らかだ。義務化をためらう余裕はない」
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きっかけは東日本大震災だ。死者・行方不明者1万8千人、全半壊17万棟の大半は津波被害だったが、自然の猛威はあらためて私たちに問い掛けた。命を守る準備はできているか、と。
意見書は指摘する。
「現在の耐震基準は、現時点における人類の知見が到達した最低限の安全基準。これを満たさない住宅は、多くの命を危険にさらす凶器だ」
「既存不適格の住宅に住まざるを得ないこと自体が人権侵害に当たる」
日弁連が求めるのは耐震改修促進法の改正か、新法の制定だ。自動車の排ガス規制のように、所有者には3~5年の猶予を設け、耐震診断と改修を義務付ける。借家は家主が改修の義務を負う。国と自治体は必要経費を負担する。
「公費は莫大(ばくだい)になる。だが、耐震化しないまま地震が起きた場合よりは安上がりだ」と平泉。
全国の既存不適格住宅は1千万棟。1棟の耐震化に150万円かかるとすれば最大で15兆円。
一方、南海トラフ巨大地震が起きた場合の被害総額は220兆円、首都直下なら95兆円-と国は試算する。
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国が旧耐震住宅の耐震化に向き合ったのは阪神・淡路大震災からだ。
1年後の1995年12月、耐震改修促進法を施行。国が目標を定め、自治体が計画を立てて耐震化を進める枠組みをつくった。これでも進まないと見るや、昨年11月、3度目の改正を行い、公的施設の義務化とともに、初めて個人の住宅を行政の指導対象に含めた。
実は、促進法改正議論の中で住宅の「義務化」は課題に挙がっている。だが、国土交通省建築指導課の課長補佐、名口芳和(38)は言った。
「結局、私有財産の形成にもつながり、ハードルが高かった。現状では、国民意識の啓発と補助拡充の両輪で目標の90%を目指したい」
そして、付け加えた。
「そもそも、国民は義務化を望んでいるのだろうか。かえって混乱を招かないか」(敬称略)
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阪神・淡路大震災から20年。最大の教訓だったはずの住宅耐震化は依然、議論の途上にある。(木村信行)
=おわり=
2014/9/6