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 阪神・淡路大震災の関連死をめぐる訴訟の判決が、東日本大震災後、注目を集めている。

 地震当日、芦屋市内の病院に内臓疾患で入院していた男性=当時(75)=が停電による呼吸器の停止で亡くなった事例だ。男性は地震前から危篤状態で、同市は「震災死」を否定。妻からの災害弔慰金の支給申請を却下した。しかし、大阪高裁は震災との因果関係を認め、震災の7年後、最高裁で判決が確定した。

 「この判例が持つ意味は大きい」

 東日本大震災当時、岩手県宮古市の法律事務所に勤務していた弁護士小口幸人(おぐちゆきひと)(36)=東京都=は話す。

 判決は、因果関係の認定について「震災がなければ、少なくともその時期に死亡していなかった」との判断基準を示した。病状や直接の死因にとらわれず、関連死を幅広く捉える。東日本以前、唯一の判例でもあった。

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 関連死には、明確な基準が存在しない。

 東日本大震災後、厚生労働省は参考情報として自治体に一つの基準を流した。2004年10月の新潟県中越地震で同県長岡市が作成し、「長岡基準」と呼ばれる。

 そこには、発災から死亡までの期間の基準がある。1カ月以内は「関連死の可能性が高い」、6カ月以上は「関連死でないと推定」などだ。

 「これは、阪神・淡路大震災で神戸市が作った内部基準とほぼ同じ」

 そう明かすのは、神戸市の生活再建本部次長だった桜井誠一(64)。「ただ厳格にこだわったわけではない」ともいう。

 同市は、医師や弁護士ら6人でつくる審査委員会を設け、関連死を認定した。西宮市など他の被災自治体も審査会を設け、その方式は東日本にも受け継がれている。

 しかし、これでは自治体ごとに判断の差が生じる。阪神・淡路でも東日本でも、自治体から国の統一基準を求める声が上がったが、「弔慰金支給は市町村の自治事務で、国が基準を示すことはできない」と復興庁。「国が示せば、地域の実情が反映されなくなる」と懸念する意見もあり、基準作りは進んでいない。

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 「国や県が事例を集積し、公開する必要がある。それが関連死の防止に向けた教訓にもなる」

 9月2日。日本弁護士連合会が東京で開いたシンポジウムで、弁護士の小口はそう強調した。

 岩手県山田町の審査委員会委員も務めた小口。大阪高裁の判例を重視し、関連死を幅広く認めるよう訴えてきた。だが、被災地では、それに逆行するような動きもある。

 独自の審査会を持たない12市町の委託で設けられた宮城県の審査会は、昨年9月末時点で、震災6カ月以降の死亡者の審査数がわずか1件。岩手県委託分の192件に比べて極端に少なく、「長岡基準」の影響が指摘される。

 宮城県震災援護室は「期間にとらわれているわけではない」とするが、小口は「申請自体のハードルが高いようでは、教訓を見いだすことはできない」と指摘する。

 「関連死」の概念が示されて20年近く。その実態をつかむ努力はまだ十分ではない。=敬称略=(磯辺康子)

2014/9/18
 

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