【息子ら成長 気付く親心】
「お父さん、黒い雪が降ってきた」
見上げると、空から燃えかすが落ちてくる。どこかで火事か-。
大震災当時、4歳だった長男の言葉が頭から離れない。神戸市長田区菅原通3で両親を亡くした神戸村野工業高校教諭、吉川修二さん(56)が話してくれた。
“黒い雪”を見たのは、当時住んでいた同市垂水区の自宅そば。実家に近い弟に電話すると、「あかんと思てくれ」。家族4人を乗せた車が、菅原通に着いた時には、もう焼け跡だった。
アメのように曲がった勉強机があった。かつて吉川さんが使っていたものだ。
「おじいちゃん、おばあちゃん、死んじゃったんやで」
燃え尽きた実家を見詰め、隣に立つ長男につぶやいた-。
焼け跡にいた、あの防寒着の少年を捜しているうち、吉川さんにたどりついた。
高校の一室で震災直後の様子を聞いていると、「ちょっとごめんなさい」と顔をそむけた。しばらく動かない。今もフラッシュバックに襲われるという。
両親が住んでいたのは、少年が撮影された場所の西向かい。写真を見せると、吉川さんは首を横に振り、「僕は遺骨を拾っただけ。最期は見てないから。この少年がどんな心境やったのか…」
父昭一さん=当時(67)=は元家具職人で、頑固一徹。「しゃべる前に、手が出よった」。だが、吉川さんが成人した後は口出ししなくなった。母秀子さん=同(61)=とともに完成間近だった吉川さんのマイホームを楽しみにしていた。
4歳だった長男、裕亮(ゆうすけ)さん(24)は亡き父に似てものづくりが好きで、製造メーカーに就職した。次男大紀(だいき)さん(23)も働き始めた。吉川さんは夫婦で旅行を楽しむようになった。
「おやじもおふくろも、これからって時。親孝行、したかったなあ」
1月17日は、自宅の仏壇に日本酒を供える。父が好んだ酒。最近、その味が分かるようになってきた。(上田勇紀)
2015/1/13