【トライス(神戸市中央区)情報加工コンサルティング業 岸徹さん(59)】
動画の撮影スタジオやデザイン制作室などを備えた本社ビル。社員11人の平均年齢は37歳と若い。指揮を執る社長の岸徹(59)は言う。「うちは印刷機のない印刷会社。デザイン制作や企画を主体にしたことで、ウェブサイトや動画など幅広く提案ができる」
昨年、創業80周年を迎えた。長く「印刷とコピー機」の看板を掲げた老舗企業は今、「情報加工コンサルティング会社」を名乗る。自社での印刷加工をやめ、販促や広報といった目的に応じて顧客の情報を加工していく。
学校案内のパンフレット制作の依頼が入れば、デザイン制作に加え、ウェブサイトや就活イベントへの参加なども提案する。「顧客が最終的に求めているのは、印刷物をきれいに早く作ることではなく、生徒を集めること。ポジションを顧客視点に変えた」
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転換のきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災だった。
本社ビルは建て替えたばかりで倒壊を免れた。破損した印刷機は、メーカーの素早い対応ですぐに修復できた。次々と復旧に向けた急ぎの仕事が舞い込んだが、交通の混乱で従業員が出社できない。
それでも「従業員を一人も解雇しない」と決め、仕事を引き受けた。姫路市の同業者に協力を求め、同市内に臨時拠点を設けた。車を持つ学生を雇い、大量の印刷物を姫路から被災地へ届ける日々。交通が混乱する中、神戸と姫路を往復しながら岸は思った。
「すべてを自社スタッフでやる必要はない」。複数の協力会社を活用するビジネスモデルに切り替えた。
97年にそれまでの「日新堂印刷」から現社名に変更。99年、専務から4代目社長に就いた岸は宣言した。「退路を断つため、印刷機を捨てる」
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この20年で印刷業界の環境は激変した。パソコンの普及で手軽に印刷ができるようになった。工業統計では、2012年の印刷事業者数は約2万8千。90年から約4割減り、製造品出荷額も約3割減った。
この構造変化をいち早く察知し、「装置産業」と決別した岸。生命線は顧客への提案力だ。人材育成を強化するため、戦略会議を毎月開き、具体的な数値目標を掲げる。利益管理も徹底し、社員のモチベーションを引き出す。
「企業が健全な形で生き残り、成長するためには、変化に敏感になること。常にスピード感のある戦略とチームづくりが求められ、ゴールはない」
=敬称略=
(石沢菜々子)
▽トライス 1934年創業。社名はトラスト(信頼)、リファイン(洗練)など理念を表す英語の頭文字。企業・団体、学校、官公庁向けに印刷物のデザインなどを手がける。社員11人。売上高1億8千万円。
2015/1/14