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実家を訪ねた美幸さんと結ちゃん。父政三さんが目を細める=神戸市長田区(撮影・三浦拓也)
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実家を訪ねた美幸さんと結ちゃん。父政三さんが目を細める=神戸市長田区(撮影・三浦拓也)

実家を訪ねた美幸さんと結ちゃん。父政三さんが目を細める=神戸市長田区(撮影・三浦拓也)

実家を訪ねた美幸さんと結ちゃん。父政三さんが目を細める=神戸市長田区(撮影・三浦拓也)

 強い寒波に見舞われた1月2日。神戸は0・4度まで冷え込んだが、同市長田区にある復興住宅の1室は、ぬくもりに包まれていた。

 阪神・淡路大震災で母を亡くした早川(旧姓・長尾)美幸さん(27)は夫文章さん(33)、昨年5月に生まれた長男結(つなぐ)ちゃんと、父長尾政三(まさみ)さん(66)が住む実家を訪れた。兄貴幸さん(35)、誠さん(32)の家族も集まり、総勢9人。部屋ににぎやかな笑い声が広がった。

 赤飯やチキンが並ぶ食卓を囲む。輪の中心は、初めての正月を迎える結ちゃんだ。じいちゃん、おじちゃん、おばちゃんが代わる代わる抱っこし、あやす。終始ご機嫌な結ちゃんの姿に、美幸さんは顔をほころばせた。

 勢ぞろいは偶然だった。きょうだい3人とも結婚し、仕事や育児に忙しい。「たまに会っても、けんかしますしね」。貴幸さんは苦笑する。「でも最近、思うんです。長尾家の中に三つの家族ができて、つながってるなあって」

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 「失いたくないもんは何か。僕らにそれを全力で守る覚悟をさせた」。貴幸さんは地震が起きた「1月17日」をそんなふうに考える。

 母、裕美子さん=当時(43)=の命を奪った大震災。家も失い、避難所や仮設住宅で5年近く暮らした。

 当時、まだ小学2年生だった美幸さんは笑顔を忘れ、「1月17日」が嫌いになった。毎年その日が近づくと、気持ちが沈んだ。

 「美幸を守らなあかん」。父や兄は懸命に母親役を担った。食事を作り、洗濯や掃除をし、学校の送り迎えをした。周囲の人にも支えられた。

 避難所でお菓子をくれたおばちゃん。仮設住宅で優しくしてくれたおじいちゃん、おばあちゃん。兵庫県立舞子高校環境防災科で学んだ3年間は、恩師や友人が、震災と向き合うつらさを和らげてくれた。美幸さんは人の温かみに触れ、少しずつ笑顔を取り戻していった。

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 今年の1月17日。美幸さんたち親子は、早朝から神戸・東遊園地の「1・17のつどい」に足を運んだ。竹灯籠の火を見詰める3人のそばで、兄の貴幸さんがつぶやいた。

 「美幸の顔が初めてたくましく見えた。母親になるってすごいな。なんか安心した」

 かつてない人であふれた東遊園地。その中で、結ちゃんは、大きなあくびをした。

 「きょうは、たくさんのありがたさを再確認できる日。大切に思っていこうな」。美幸さんは、結ちゃんを抱く腕に力を込めた。

(宮本万里子、岩崎昂志)=おわり=

2015/1/26
 

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