ホタルの語源としては「火垂(ほた)る」がよく知られているが、「星垂(ほた)る」という説もある。天の星が無数のしずくとなり、地に舞い落ちてくる-とはいかにも日本的詩情に富んでいよう◆明治の日本に暮らした作家、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の感性も「星垂る」を好んだようだが、学説としてはあまり支持されなかったらしい。八雲は「妥当性の点でふるわず、残念」と書きとめている◆今週の本紙地域版をめくっていたら、星空の下でホタルが緑がかった光の糸を引き、ダンスを踊っているかのような写真に出合った。「星垂るの里」とでも呼びたくなるその光景はきっと、町の至宝に違いない◆子どもの頃にホタルがいた場所を何十年ぶりかに訪ねたとして、昔と同じ景色がどれだけ見られるだろう。今も人里に残るホタルの“名所”が、地元の大変な努力によって守られていることも忘れてはいけない◆ところで古来、宮廷人のみやびな慰み事だったホタル狩りがむしろ子どもの楽しみとなったのは、大人が忙しくなった明治の世からだと八雲の文章にある。その虫の習性は日本の子どもがだれより詳しい、とも◆〈蛍獲て少年の指みどりなり〉(山口誓子)。次第に遠ざかっていく夏の夜の情景が胸にともっては、消える。2021・6・5
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