晩ご飯の肉じゃがを食べながら、あるいはビールのあてのフライドポテトをつまみながら「あ、インドネシア」と考える人はまあ、いない。ジャガイモは16世紀、かの地より伝来した◆ジャワ島にある現在の首都ジャカルタはその昔、ジャガタラと呼ばれ、「ジャガタライモ」が時を経て略されたらしい。ジャガタラの花ともいわれるその花は小さくかれんで、ちょうど梅雨時の今の季節に咲く◆天皇、皇后両陛下がインドネシアへの親善の旅を終え、帰国された。わざわざジャガタラを持ち出さずとも、縁の深い両国である。笑顔あふれた今回のご訪問が、ゆかりある多くの人の心に花を咲かせるといい◆脚本家の山田太一さんはつづっている。「東南アジアは戦争中に知った地名が目白(めじろ)押しなのである」。インドネシアを例に挙げれば、バンドン、スラバヤ、パレンバン-。うなずかれる戦中派も多いことだろう◆山田さんは旅先としての東南アジアを長らく避けていたという。「どうも日本軍が占領していた土地へ遊びに行くというのが」…億劫(おっくう)だった。楽しめるわけないじゃないか、と(「夕暮れの時間に」河出文庫)◆花咲き誇る南国に、今も消えぬ涙のあとがある。今も胸をさす痛みがある。戦後派とてそのことを忘れない。2023・6・25
