いつ、どこで、だれが、なぜ犯したか。殺人罪はおおむね事件を点でしか裁かない。では、神戸市北区の住宅街で当時16歳の堤将太さんが刺殺された事件は、どう受け止めたらいいか◆被告の男が逮捕されたのは一昨年の夏。逃亡期間は約11年に及ぶ。「被告人は逮捕されるまでの間、一日一日罪を重ねていた。この事件は、逮捕までの11年間全てが犯罪だと思っています」。神戸地裁の大法廷で、父の敏(さとし)さんは冷静に、そう問いかけた◆きょう判決が下されるまで12年と8カ月。甘え上手で皆に愛され、懸命に生きた末っ子の将太さんがいない日々が家族にとってどれほど切ないか。被告には分かるまい◆将太さんが息を引き取った日、亡きがらを抱いて帰宅し、家族6人枕を並べて寝た。主役のいない17歳の誕生日はケーキの火をみんなでふき消した。毎日の食事は今も一緒。情報を募るビラ配りもやめなかった◆有島武郎「小さき者へ」より。「お前たちをどんなに深く愛したものがこの世にいるか、或(ある)いはいたかという事実は、永久にお前たちに必要なものだと私は思うのだ」◆判決の重さよりはるかに重く大切なものを将太さんはとっくに家族から受け取っている。だから天国でも笑顔でいるだろう。どんな判決が出ようとも。2023・6・23
