江戸時代にも妖怪ブームがあった。火付け役とされるのが浮世絵師、鳥山石燕(せきえん)だ。「画図百鬼夜行全画集」(角川ソフィア文庫)を見ると、異形の妖怪たちが、どこかユーモラスで愛らしい◆日本の妖怪文化は「実態不明の生物や現象に姿を与える絵師の働きによって成熟した」と民俗学者の小松和彦さんは語る。見えないものを見る。「現代の妖怪絵師」と呼ばれた漫画家の水木しげるさんは、その正当な継承者だった◆水木さんと兵庫の縁は深い。戦後間もなく神戸市兵庫区水木通でアパートを買い取り、管理人兼、紙芝居作家として身を立てた。そのとき名付けた「水木荘」がペンネームになった◆「ゲゲゲの鬼太郎」の原点ができたのは西宮市今津に移った頃。画力を磨いたのは10代の終わりに過ごした丹波篠山。大阪の美術学校をさぼって虫や動物をじっと観察し、絵ばかり描いた。「『好き』の力を信じなくちゃあ」と本紙の取材に答えている◆コロナ禍で令和の世によみがえった妖怪がいる。疫病よけのアマビエだ。ネットで話題になり、あちこちで姿を見る◆「科学で何でも分かると思っている。不可知な存在を否定するのは、人間の傲慢(ごうまん)ではないか」。水木さんの言葉は現代への警句のようだ。きょうは生誕100年。2022・3・8
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