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 大国の専横による紛争が広がる中、解決の手段となるべき国際法システムは形骸化の危機にさらされている。「法の支配」が揺らぐ現状に、ノルウェーのノーベル賞委員会が強い警鐘を鳴らした。

 平和賞に決まった南アフリカ出身の元国連人権高等弁務官ナバネセム・ピレイ氏は、アパルトヘイト(人種隔離)政策と闘う弁護士として頭角を現し、戦争犯罪や人道に対する罪、ジェノサイド(集団殺害)の訴追に関わってきた。ノーベル賞委員会は「国家や国家指導者の責任を追及し、暴力や紛争の犠牲者に希望をもたらしてきた」とたたえた。

 ピレイ氏は国際司法を象徴する存在だ。国連のルワンダ国際刑事法廷や国際刑事裁判所(ICC)の裁判官を歴任し、現在は国際司法裁判所(ICJ)で活動する。昨年はパレスチナ自治区ガザの人権状況を調べる国連人権理事会の調査委員長として、イスラエルや軍がジェノサイドの「明確な意図」を持って攻撃していると批判した。

 一方、国際法の正義を実現する活動は厳しさを増している。「力による平和」を公言するトランプ米大統領は、ガザでの戦争犯罪容疑を巡るネタニヤフ・イスラエル首相らへの逮捕状発行に激しく反発し、ICCの赤根智子所長らに制裁を科してきた。ピレイ氏の授賞発表直後には組織全体への制裁を表明した。あからさまな報復である。

 悲惨な戦争体験を教訓に積み重ねられた国際司法の仕組みを、自国の都合で無力化させようとする姿勢に強い憤りを覚える。米国はただちに全ての制裁を解除するべきだ。

 ノーベル賞委員会は、ウクライナ侵攻を巡る逮捕状発行でロシアからも制裁を受けるICCの裁判官らへの連帯を示した。平和賞は赤根所長を含め、国際司法に携わる法律家全員への授与と言える。

 国際法による「法の支配」には課題も多い。執行機関を持たないため強制力の限界があり、米国やロシア、中国はICCに未加盟だ。ノーベル賞委員会は「大国はしばしば責任を回避してきた」と非難した。

 国際秩序の実現には実効性の担保が欠かせない。国際法違反の振る舞いがあれば大国の指導者をも確実に訴追する仕組みを、長い年月がかかっても構築する必要がある。ピレイ氏への授賞をその一歩としたい。

 平和憲法を持つ日本には国際協調による紛争解決が特に重要だ。米国は唯一の同盟国だが、「国際法は不要」と言い切るトランプ氏に頼りきるわけにはいかない。ミドルパワー(中堅国)同士の連帯を強め、大国も法に基づく国際秩序を守るよう働きかけを強めなければならない。