議員のなり手不足や、住民の関心の低さが叫ばれて久しい地方議会。とりわけ人口減少や高齢化の進行が著しく、議員報酬も都市部に比べて低い小規模自治体では深刻さを増している。「ギカイズム2」最終回となる第8弾は、議会基本条例の制定をはじめとする約10年前の全国的な「議会改革ブーム」を経て、模索が続く兵庫県佐用町議会(定数14)の取り組みを紹介する。
■佐用町議会議論深化へ試行/改革ブーム一段落、停滞に危機感
岡山県に隣接する兵庫県佐用町。今月4日、前年度の税金の使われ方をチェックする同町議会の決算特別委員会で、初めての取り組みが行われていた。
各議員が町側に、あらかじめ大まかな質問内容を知らせておく-。内容が町政の課題全般にわたる一般質問では導入している「通告制」を、特別委にも広げる試みだ。
本来なら、通告なしの丁々発止のやりとりの方が望ましい。だがこれまでの実態は、議員が思いつくままに質問するため、その意図が分かりにくかったり、町側が答弁に窮したりすることも多く、議論が深まっているとは言い難かった。
「議員のぐだぐだな質問に、住民から『勉強しているのか』と苦言を受けることもあった。議員の資質が問われかねない」
同町議会で2番目に若い千種和英・議会運営委員長(53)は、議会側の質問技術の未熟さを認める。通告制の導入によって、まずは議論の質を高め、ひいては議員の技術向上にもつなげようという狙いだ。
9月定例会後には、通告制の試験導入の結果について、初めて全議員で意見を交わす予定だ。「課題を共有し、議会を底上げする機会にできれば」と千種委員長。特別委を一般質問と同様、ケーブルテレビで生中継することも計画する。取り組みの背景にあるのは、現状への強い危機感だ。
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佐用町議会ではかつて、改革の機運が一気に高まった時期があった。
地方議会の最高規範とされる「議会基本条例」が各地でブームとなり、同町議会も8年前、議会改革調査特別委を設置した。「議会基本条例の制定を目指し、若手議員6人を特別委のメンバーにしてほしいと議長に頼み込んだ」。当時、委員長に抜てきされた石堂基(もとい)議長(63)は振り返る。
課題を探るため特別委ではまず、住民への意識調査(約900人が回答)を実施した。すると7割以上が、町民の声が議会に反映されているとは「思わない」「あまり思わない」と答え、6割以上が当時の議員定数18を「多い」とした。
その後、2年近くかけて調査報告書をまとめ、2014年には議会基本条例を制定。常任委員会を三つから二つに、議員定数を18から14に減らした。
さらに定数削減で浮いた経費を活用し、議員報酬を月額2万円増の27万円とした。働き盛りの世代に議員を目指してもらうための環境整備だ。翌15年には、住民の中に入って生の声を聴こうと議会報告会も始めた。しかし今、こうした改革は暗礁に乗り上げている。
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「議会への住民の視線は依然冷めている。合併を機に身近な議員がいなくなった地域も多い」と石堂議長。議員のなり手不足も解消されたとはいえず、2年前の町議選は無投票は免れたものの、定数14に対し立候補者は15人にとどまった。
改革の目玉だった議会報告会は、全議員が各地区を回って議会の仕組みなどを説明し、住民と意見を交わした。だが期待した若い参加者は少なく、次第に顔触れが同じ住民に固定化し、開催の意義が薄れてきた。
それでも石堂議長は、議会がどう見られているかを実感できる報告会が重要とみる。昨年からは依頼のあった小規模グループに出前で懇談会を開く形に変更。開催はまだ2回だが、「ゼロあるいはマイナスの状況から、住民と議会の信頼関係を構築し、声を町政に生かしたい」と力を込める。
議会の今期の役員には、志を同じくする人材が集まったという。ブームでも、付け焼き刃でもない地道な改革は始まったばかりだ。(井関 徹)
■統一地方選町村議選の無投票23%-なり手確保住民との協働が鍵
議員のなり手不足、住民の議会離れは4年に1度の改選の際に、如実に可視化される。
総務省によると、昨年春の統一地方選では、無投票当選者の割合が都道府県議選で26・9%、町村議選で23・3%となり、いずれも過去最高だった。投票率は、都道府県議選=44・0%▽政令市議選=43・3%▽市区議選=45・1%▽町村議選=59・7%-で、いずれも過去最低を更新した。
兵庫県内でも、県議選と11の市町議選で過去最低の投票率を記録。うち県議選と4市議選(神戸、明石、西宮、宝塚)は4割を割り込み、有権者の関心を高める手だてが見つからない。
2017年には、人口約400人の高知県大川村が、同村議会(定数6)の代わりに住民が予算案などを直接審議する「村総会」の設置を一時検討。全国から注目され、制度改革の議論がにわかに加速した。
総務省の研究会は翌18年、議員の兼業・兼職制限を緩和する「多数参画型」と、少数の専業的議員で構成し、重要議案の審議で住民参加を新たに認める「集中専門型」という二つの新たな議会の形を選択肢として提示した。しかし、地方側は「中央からの押し付け」などと反発。同省は事態の打開を狙って昨年6月、新たな研究会を設置した。
研究会が今年8月にまとめた報告書では、法律上の位置付けが曖昧とされる議員の職務の明確化など、中長期的な検討課題を整理。なり手を増やすには「各議会が住民と関わりを深める活動を行い、理解を得ていること」が大前提とした。
さらに一部地域の活動例として、住民から広く意見を聴く「議会モニター」、議会と住民が協働して政策をまとめる「政策サポーター」などを紹介。議場外で住民参加や情報発信を充実させる必要性を指摘した。
また、人口減少社会での地方行財政制度の在り方を審議する「地方制度調査会」は6月の答申で、新型コロナウイルス感染症も踏まえ、議会運営や住民参加の取り組みでデジタル化への対応を検討すべきだとした。(井関 徹)
2020/9/24