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マスクに描かれた青いハートマーク。困っている人に対して、「サポートできます。私に声をかけてください」という意思を表すシンボルにしたいという(画像提供:伯鳳会)
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マスクに描かれた青いハートマーク。困っている人に対して、「サポートできます。私に声をかけてください」という意思を表すシンボルにしたいという(画像提供:伯鳳会)

マスクに描かれた青いハートマーク。困っている人に対して、「サポートできます。私に声をかけてください」という意思を表すシンボルとして、関西に拠点を置く医療法人で取り組みが始まった。

■人助けに間違いなんてない

2021年5月に障害者差別解消法が改正され、全ての民間事業者において「合理的配慮」が法的に義務化された。赤色に白い十字とハートを縦に配置した「ヘルプマーク」は、障がいや疾患などをもっていても外見から分からない人が、支援や配慮を必要としていることを周囲に知らせるマークとして、2012年に東京都で始まり、今はほぼ全国へ広がりを見せている。だが、はたして必要なサポートの実現に至るまで十分に周知されているだろうか。プラスハートアクションの発案者で伯鳳会放射線部係長の櫻井勇介氏に話を聞いた。

   ◇   ◇

医療法人伯鳳会は兵庫、東京など4都府県で10病院と60を超える事業所を運営しており、この法改正を機に取り組みを始めた。

まず、調査会社を使って20~69歳の男女1000人を対象にアンケート調査を行った結果「どのようにサポートしたら良いのか分からない」が93.9%、「適切なサポートができる自信がない」が77.9%という数字になった。つまり、ヘルプマークの意味を知っていて「手を差し伸べたい」という気持ちがあっても、行動に移せていない人が少なくないようだ。

アンケートと並行して、ヘルプマーク利用者と学生、行政、大阪メトロなど企業関係者を招いて、駅や街などでどういうことで困るのかを実際に見てもらうスタディツアーを開催。そのディスカッションで、障害をもっている方から『言いたくてもいえないことが多々ある』『助けを求めるオーラを発しているけれど気づいてもらえたことがない』という話があり、学生からは『じつは気づいているけど、自分に手助けができるだろうか』『声をかけたら、そのあとちゃんとお話しができるか不安』という話が出た。お互いの存在に気づいているのに、声かけをためらっていることが分かり、学生たちは「失敗を恐れず『おせっかい』になって、自分から関わるべきだ」という結論に達したという。

ならば「“手を差し伸べたい人”に対しては、どのようなサポートが求められているのかを分かりやすく示す。また“助けを求めている人”に対しては「気づいていますよ」とシンプルに伝えることで、お互いにためらわず助け合うことができるのでは? ということで、伯鳳会では青いハートを描いたマスク「ヘルプマスク」でサポートの気持ちを表す「プラスハートアクション」と銘打った取り組みを始めた。

■発案のきっかけは広報の切り口を探していたとき

櫻井さんは医療法人伯鳳会の大阪陽子線クリニックに勤務する医学物理士で、現在の施設の建築段階から施設責任者を務める傍ら、陽子線について世間に広く知ってもらうためのPR業務に携っていた。

「伯鳳会グループの価値を向上させる役割をもつ施設として、グループ全体のPRにも取り組まなければと思い立って、志願して広報をやり始めました」

医療法人と地域社会を繋ぐため、その境界線上にあるヘルプマークをテーマに定めたところ、医療従事者の中にも知らない人が少なくない現実を知る。

シンボルマークを決めるにあたって、はじめはハートと十字を組み合わせたデザインを考えていたという。だが、ヘルプマークと混同を招く恐れがあった。別のデザインを考えていくうちに櫻井さんは、ハートには色によって意味があることを知る。青いハートは「信頼・調和・揺らぐことのない愛」を意味するほか、2020年12月に都ホテル京都八条で客室の窓が青いハート型にライトアップされたように、コロナ禍での医療従事者に向けた感謝の気持ちを表すことにも使われた。その思いを身近な人に向けてほしいという願いを込めて、青いハートに決定した。

「これは当法人に帰属するマークではなく、誰もが使っていただけるよう、いちばんシンプルな形として青いハートにしました」

そして、サポートの対象を「ヘルプマーク」に限定せず、全ての人が互いに助け合えるきっかけを生み出すこととした。

こうしてプラスハートアクションは「ハートの日」に合わせた8月10日、櫻井さんともう1人、同僚の診療放射線技師・毛利ひかるさんによってスタートした。

■人と人との繋がりを取り戻したい

「プラスハートアクションは、青いハートをシンボルに助け合いのカタチを分かりやすく示し、障がいの有無にかかわらず全ての人が暮らしやすい社会を目指す架け橋であることを理解し、自分がつけているマスクに青ペンでハートを描くだけです」

そしてSNSに「#青いハートがあふれる社会を」や「♡(ハートマーク)」をつけて投稿してほしいという。それが、サポートを求める声と、助けたい人の声を結ぶきっかけになる。思いやりや優しさを実行動に移して、助け合いながら社会に理解を広げていく狙いだ。

「人と人との繋がりを取り戻してほしいのです」

コロナ禍でマスクが人の距離を遠ざける象徴になってしまった。表情が読み取りづらいため、心理的な隔絶も生まれた。プラスハートアクションは、そのマスクがコミュニケーションのきっかけとなることを願う逆転の発想である。

カラーは8月10日の誕生色である「ハイドレンジアブルー」を一応の標準としているが、青系なら何色でもいいそうだ。ハートの大きさも決まった規格はない。

櫻井さんは「極端にいえば、ハートを描かなくてもいい」ともいう。

「ハートマークは免許でも義務でもなく、つけているから誰かを助けなきゃいけないということでもありません。青いハートを見て、このような取り組みがあることを思い出し、行動のきっかけとしてもらえたらいいのです」

また、賛同してくれる企業も募っている。

まずは法改正によって義務化された合理的配慮について考えて、動き出して欲しいという。

「合理的配慮と聞くと難しそうですが『どないしたん? それくらいやったらかまへん、任せとき!』というスタンスで十分です。必要であれば、データで提供できる資料はすべて無償で提供します。ロイヤリティの類は発生しません」

賛同した企業に、何らかの義務が生じるわけでもない。

「職員の方の教育資料に活用していただいて結構ですということと、合理的配慮を実現するきっかけとして青いハートマークをつけていただきたいです」

趣旨に賛同するだけで簡単に参加できて、費用は一切発生しない。なぜ、それほどまでに? という素朴な疑問が湧いてくる。

医療機関として直接的なPRを打てば、患者さんが来てくれる。それはシンプルで分かりやすく「そういうのもアリでしょう」と櫻井さんはいう。

「コロナ禍で世間はリモート化が進み、人と人との距離がどんどん遠くなっています。それでも医療を完全にリモート化するのは無理です。どれだけ信頼され、顔の見える関係性を構築できるかが医療の根本です。これは重要なポイントであり経営にも関わりますから、医療機関として地域の人たちから愛され、尊敬されるようにならないといけないと思っています」

■最終的な理想は青いハートが必要なくなること

プラスハートアクションには、伯鳳会で働く職員の意識を啓発する目的もあるそうだ。

「行動規範は、既にあるものから変更しておりません。しかし、職員全員が青いハートをつけていると、病院を訪れた人の目に留まります。職員ひとりひとりが『見られている』と意識して背筋が伸びる。それによって自然と人当たりのいい対応に繋がり『あそこのスタッフは感じがいいよね』という印象になって伝わります。その信頼があって初めて、地域の方々が私どもに何を期待してくださっているのかを伺うことができ、更なるサービス向上に取り組むチャンスを掴めます」

それが結果的に「地域から選ばれる病院」になるのだという。

「5年後か10年後かもしれないけれど、これから先の利益を長期的に安定して創出できるブランディングのひとつであると考えています。一言でいうと、プラスハートアクションはSDGsの取り組みのひとつでもあり、リスクの低い長期的な投資です」

それではプラスハートアクションを、最終的にどのように育てたいかを尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「矛盾しているかもしれませんが、青いハートを必要としなくなることが目標です。遠慮しあって何もしない状態が解決すれば、それで充分です。」

   ◇   ◇

プラスハートアクションを広めるために、櫻井さんらはマスクなどに付けられる小さな紙製のハート型クリップをつくった。

「どこでも使っていただけるように、伯鳳会グループのロゴは敢えて入れていません。店舗や公共施設などに置きたいというご要望をいただいたら、数が許す範囲でご提供します」

個人に直接送ることはしていないという。

   ◇   ◇

【参考】シンボルカラー・ハイドレンジアブルーのカラーコード
RGB/R63 G97 B161
HTML COLOR(HEX)/#3F61A1

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

2021/8/28
 

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