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マインドコントロール俳優の津田寛治(撮影:石井隼人)
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マインドコントロール俳優の津田寛治(撮影:石井隼人)

「ネットで“重病説”などと書かれたこともありましたが…」。そう苦笑いするのは、俳優の津田寛治(56)。終戦を知らされぬまま異国のジャングルで秘密戦を遂行し続けた小野田寛郎さんの姿を描くフランス映画『ONODA 一万夜を越えて』(10月8日公開)で、遠藤雄弥(34)とともに主人公の小野田を演じた。

元々細い体格の津田だが、30年以上過酷なジャングル生活を続けた小野田さんの身体的特徴を完コピすべく、頭を丸めて13キロの減量を敢行。スポーツの世界においても減量は苦行だと言われる。13キロ減量の津田もさぞかし辛かったろうと思いきや、爽やかな表情で「これくらいは当たり前のことです」と教えてくれた。役者バカ一代、津田寛治が“重病説”も囁かれた激ヤセの舞台裏を語る。

演じた小野田は実在した人物がモデルゆえに写真や資料が豊富という利点がある反面、ウソはすぐにバレるというリスクもある。「小野田さんはジャングルで長く生活をされていたということもあり、ただ痩せているだけではなく、細マッチョに近い。筋肉はついているけれど、痩せているところはゲッソリという痩せ方。これを再現するのは大変だぞと気合を入れたのを覚えています」と完璧にトレースすることを決意した。

■こうやって人間は死んでいく

固形物は口にしないという絶食に近い食事制限と筋トレを自らに課すと同時に、思考回路を操るマインドコントロールを実施。これが効いた。「断食やファスティングの利点を唱える記事だけをネットでひたすら漁り、“空腹時こそ人間は輝く”という自己暗示をかける。空腹を感じると“これぞ最高!”と思うようにする。イヤイヤやっていたら人は長続きしません。減量する上でポジティブなマインドコントロールが一番効果を発揮しました」と実感を込める。

最長5日ほぼ絶食という異常事態も経験したが「マインドコントロールのお陰でまったく平気。空腹という概念すらなくなりました。体重も転げ落ちるように減っていくので、痩せるのは案外簡単。“こうやって人間は死んでいくのか…”と冷静に思ったりして」と狂気すら感じさせる。これを世間ではストイックと言うのだろうが「俳優ですから、これくらいは当たり前です。撮影時期にネットで重病説などと書かれたようですが、すべて役作りのためです」と噂を笑い飛ばす。

その狂気性は劇中の小野田とリンクするようなところもある。終戦を迎えたことを知らない小野田らは、フィリピン・ルバング島でゲリラ戦をひたすら続ける。しかし離脱や戦死が相次ぎ、孤独が心を蝕む。終戦を知らせる声に対しては陰謀説を唱え、現実と妄想の境目も曖昧になっていく。

川で拳銃を失くした小塚(千葉哲也)を責め立てた後に見せる小野田(津田)の笑顔は、かなりマッド。「アルチュール・アラリ監督からは、銃を失くしたことに怒り、銃を見つけて喜ぶという流れの中に小野田と小塚の絆や切なさを見せてほしいと細かく演出されて、かなりのテイクを重ねました。僕ら俳優にとっても監督にとってもこだわりの場面です」と振り返る。

■『JAWS/ジョーズ』の方式とは?

映画は青年期の小野田(遠藤)のシーンが大半を占める。当初は「遠藤君に老けメイクをさせて演じさせれば成立するのに、なぜわざわざ役者を二人に分けたのだろうか?」と意図を掴みかねていたという津田だが、3時間近い大作となった完成作を観て初めてその狙い理解した。津田曰く本作には“『JAWS/ジョーズ』の方式”が採用されているという。

「遠藤君の小野田でストーリーの盛り上がりが頂点に達した瞬間、突然僕の小野田という別の色を出してきて捻りを加えて、物語をより高みへと誘う。これはスティーヴン・スピルバーグ監督お馴染みの手法です。僕はこのようなゾクゾクする展開を『JAWS/ジョーズ』の方式と呼んでいますが、『ONODA 一万夜を越えて』にはまさにそれがある!」とエンターテインメントとしての質の高さも保証する。

映画好きで知られる目の肥えた津田の確信通り、第74回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門のオープニング作品として上映され、約15分間ものスタンディングオベーションで激賞された。13キロの減量を経てたどり着いた津田の小野田像も素晴らしく、日本でも話題になること必至だろう。また役者としての株を上げたことになる。

しかし津田はここでもストイックだ。「株を上げるだなんてとんでもない!これまでの自分のキャリアを振り返っても反省や悔しさばかりです。まだまだ新しい才能に出会いたいという欲求がある。年を重ねたからといって偉ぶって踏ん反り返るのではなく、いかに若い才能と出会い、同じ目線に立てるか。それが俳優を続ける上でのやりがいであり、醍醐味でもあるわけですから」。すべては作品と才能に奉仕するため。職業は俳優。だから「これくらいは当たり前のこと」なのだ。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)

2021/10/10
 

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