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乾いた汚泥?黒いビニール袋の残骸?その正体は(Satoshi Ohkuboさん提供)
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乾いた汚泥?黒いビニール袋の残骸?その正体は(Satoshi Ohkuboさん提供)

校庭や空き地のすみっこで見かける黒いやつ。捨てられたか風で飛んできたビニールの残骸とずっと思っていました。しかしSNSが真実を告げたのです。(…きこえますか…きこえますか…今…あなたの…心に…直接… 呼びかけています…あの黒いやつは…イシクラゲ…です…ネンジュモ目のシアノバクテリア(藍藻類)…なのです…実は…食べることが…できるのです…海藻のような…食感…らしいのです)

「溶けたビニールに見えるけど、今日、畑で見つけたイシクラゲ。ネンジュモ目のシアノバクテリア(藍藻類)。こう見えても、原核生物」と、東北大学大学院生命科学研究科の学術研究員で微生物生態学などが専門の大久保智司さんが自身のTwitterアカウントSatoshi Ohkubo(@sutegoma_a)で公開した画像。どうみても劣化したごみ袋のような外見ですが、実は生物という投稿が注目を集めました。

 「これなんやろう、ってずっと思ってた、ぶよぶよやし」「なんで地面にゴミ袋が埋まってるんだろうとずっと思ってた。シアノバクテリアだったんだ」「小学生時代、道路にワカメが落ちてるの何故だろうってずっと思ってたけどこれの仲間だったのかもな」。長年の謎が解けたユーザーも多数いるようで、1万6千超のいいねが付きました。

イシクラゲとは、水はけの悪い屋上や空き地に発生しやすく、苔とは違った光沢のあるゼラチン状の生物です。一見植物のようですが、シアノバクテリアのグループに分類されます。つまり、海藻よりも大腸菌に近いことになります。その研究について大久保さんに聞きました。

-この画像はどこで

「シアノバクテリアが研究対象で、普段から地面を見てはイシクラゲを探すのがほぼ習慣になっています。別の研究で大学の畑(宮城県大崎市にある東北大学遺伝生態研究センター)に行き、そこでイシクラゲを見つけました。道端で見かけるものに比べ『いい形しているなぁ。映えるなぁ』と思いました」

-すみません。水気があるとヌルヌルで乾くと汚泥に見えそうです

「イシクラゲというのは、Nostoc commune(ノストック コミューン)というシアノバクテリアが集合体を形成したものです。丸い細胞が一列に並んだ糸状体と寒天質の多糖類が凝集してイシクラゲになります。シアノバクテリアは細菌(バクテリア)の一種ですが、植物のように光合成をすることができます。藍藻類とも呼ばれる生き物です」

大久保さんによると、イシクラゲには過酷な環境に耐えられる強靭さがあり、水があるときは膨潤して寒天状、乾燥すると乾燥ワカメや板海苔のようなパリパリになります。多くのシアノバクテリアはここまで乾燥するとほとんど死滅しますが、イシクラゲは仮死状態のまま大部分が生存し雨が降ったりして再び水を含むと活発に増殖を始めます。これは、群体を形成する多糖類が細胞を乾燥から保護しているためと考えられます。また、紫外線への強い耐性もあり、日なたの土の表面や砂漠で乾燥した状態でも長期間生き延びることができます。この強靭さを利用して、宇宙空間や他の天体(火星など)でイシクラゲを育てることができないかという研究も行われています。

-イシクラゲ、すごいです!

「イシクラゲをはじめ、多くのシアノバクテリアの生態には、まだ分かっていないことがたくさんあります。庭のすみに転がっている取るに足らないような存在と思われるかもしれませんが、この地球で何十億年と生き延びてきたシアノバクテリアの生態のメカニズムには、多くの知識が隠されていると考えています。その中には、持続可能な社会を目指す私たちにとって役に立つ知識もあるかもしれません。目には見えない小さな生き物の生き様をひとつひとつ明らかにしていくことが、意外な発見に結びつくことを夢見て研究を行なっています。実は私も大学で学ぶまでこのブヨブヨが何なのか知りませんでした」

-ヌルヌルとか言ってすみません

「イシクラゲは植物の成長を阻害したり、動物にとって毒となるような害のあるものではありません。むしろ空気中の窒素を栄養分に変える能力があり、うまく利用すれば植物の成長を促進することができるかもしれません。駆除される理由は見た目の問題かと思います。今回のツイートに「滑って転んだことがある」という反応が多くて驚きました。寒天質でとても滑りやすいため、人が通る場所では取り除いた方がいいですね」

-食べることができるとか。

「私はまだ食べたことはありません。Twitterで龍谷大の先生にうかがったのですが、沖縄の宮古島ではスーパーで売られているそうです。また、中国ではイシクラゲの仲間が髪菜 (はっさい、ファーツァイ)と呼ばれて、食用にされているといいます。イシクラゲと近縁なアシツキというものがあり、万葉集にも詠まれていることから、大昔から食べられてきたようです」

2010年4月の開始以降、狙った投稿に全然いいねがつかないTwitterライフだったという大久保さん。「溶けたビニールのような写真がここまで関心をひくとは思いませんでした。皆さんの好奇心に引っかかったのかと思います。これを機会に微生物に興味をもってくれる方が増えるとうれしいです」と話しています。

 なお、食材としてのイシクラゲについては、滋賀県の姉川流域では食用にされた記録があり、「姉川クラゲ」と呼ばれた歴史があります。また、沖縄では「モーアーサ」と呼ばれ、おつゆに入れたりするそうです。大久保さんは「空き地や道端に生えているものは、有害な物質や微生物が含まれている可能性もあります。きれいな環境で育ったイシクラゲを適切に調理して食べることをオススメします」とのことです。

      ■

大久保さんは現在、微生物を使って温室効果ガスを減らす研究に取り組んでいます。その一環で、「地球冷却微生物を探せ (Soil in a Bottle)」と題した市民科学プロジェクトが始まっています。年内は宮城県内、2022年度からは全国展開の予定で、地球環境問題、土、農業、微生物などに興味のある人への参加を呼び掛けています。

(まいどなニュース・竹内 章)

2021/11/3
 

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