連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

話題

  • 印刷
阪神・淡路大震災で出現した野島断層。この震災を機に活断層という言葉がより多くの人たちに広まりました=1995年1月18日、津名郡北淡町小倉(現淡路市小倉)/神戸新聞社撮影
拡大
阪神・淡路大震災で出現した野島断層。この震災を機に活断層という言葉がより多くの人たちに広まりました=1995年1月18日、津名郡北淡町小倉(現淡路市小倉)/神戸新聞社撮影

小さい頃「タイムマシン」に夢を持った人も多いでしょう。これがあれば、阪神・淡路大震災も予見でき、あれほどの被害にはならなかったのに…。予見できれば良いに決まっていますが、大人になるにつれ、時間の壁を越えて、過去や未来に行く事ができるような機械の製作は不可能であると認識します。それでもその甘美なモノに夢を馳せてしまいます。それが証拠にアメリカのドラマ「タイムトラベル」(1966年)や映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)は大人気でした。パソコンの世界でもMac OSX 10.5(Leopard)(2007年)以降、Time Machineという自動バックアップシステムが採用されました。当たり前ですが、過去のデータに戻ることができるのであって、未来のデータは見ることができません。

わかりきったことを書いていますが、「将来のことはタイムマシンという機械がない限り誰にもわからない」と言うことが大原則です。タイムマシンが現実に存在しない事はわかっていながら、それでも将来のことを知りたいとは思いますが、基本的に無理ということが大前提です。

将来の予知、予測の大原則は、経験科学(いわゆる統計学)に基づくものです。一番わかりやすい事例は、天気予報です。1964年の東京オリンピックの開会式をいつにすべきか2年ほど前から想定したそうですが、富士山レーダー(1964年~1999年)やひまわり衛星(1977年~)のなかった時代ゆえ、結局は過去の天気データに頼らざるを得ませんでした。1964年10月10日は見事に晴れましたが、予報官は気が気でなかったことでしょう。ご承知のように、この後、長い間10月10日は体育の日として学校行事の体育祭として利用されてゆきました。

話を戻します。これだけ天災の多い国で、いつ災害が起こるかは誰にもわかりません。ただ科学の発達と過去の経験からもしも、火山が噴火したら、大雨が降ったら、地震が来たら…どの地域がどのように変化するかは多少わかるようになってきました。

地理学などを専攻する大学では空中写真判読の授業があります。地上と水平に飛行した航空機からの写真を用います。戦中から戦後にかけて軍事上、あるいは占領政策に用いられましたが、現在は測量ほかで使用します。

隣り合った2枚の写真の中で、重なった部分を左右の眼で見ることで、起伏がひじょうに強調されます。左右の眼の視差を利用した実体視です。この技術によりかすかな起伏を追うことで活断層や地形分類を行います。多くの大学ではかなりの時間をかけ、場合によっては先輩が一人ずつ横について指導する場合もあるため、概して習得します。これらの技術を利用して国や地方公共団体が古くは昭和20年代から全国の国土調査を実施してきましたが、その成果を一般の人が目に触れる機会は少なかったようです。

大昔、恩師に聞いた話では地形分類によって水害予想図を描こうとした学生が、当時の指導教官に「税金で勉強させてもらっている学生が人を不安に陥れる研究をするとは何事だ!」と怒られた時代があったとのことです。これも大矢雅彦先生の「木曽川流域濃尾平野水害地形分類図」(1955年)の刊行後、1959年の伊勢湾台風での水害被害地域と一致したことで機運が変化します。

それでも土地の価格が下がった場合等の想定を考えると行政は公開に慎重になりました。ただ火山の危険区域予測図に関しては1980年代から周知が進みました。おそらく火山地域の方々はその恩恵もあるかわりに、火山の存在によりある種の覚悟(ご先祖様や、周期の短い火山噴火の場合は身近な方が、噴火の経験をしている)があるから、周知しやすかったのかも知れません。

それに引き換え、その他の災害は青天の霹靂状況で襲ってきます。1995年の阪神・淡路大震災で活断層という語も周知されましたが、詳細な活断層地図の公表までにはやはり時間がかかりました。いつ豪雨がくるか、いつ川が氾濫するか、いつ地震が来るかは誰にも分かりませんが、自分の住んでいる地が地形分類上、どのようなところなのかを理解することで、来た場合の被害はある程度明確になりつつあります。

近年、行政側にも危機管理室などが設置され、web等でも地図が公開されています。これらの情報を積極的に見に行き、被害状況図を把握しておく事が肝要でしょう。

◆貝柄 徹(かいがら・とおる)大手前大学総合文化学部学部長・教授、専門は自然地理学。
大阪教育大学大学院修士課程修了(教育学修士)、関西大学大学院博士後期課程修了(博士(文学))。アジア・インド洋・太平洋海域のサンゴ化石や貝化石の年代測定を実施する変動地形が専門であったが、地域環境も観察するようになった。考古学や文化人類学の専門家と一緒に各国の調査経験を有している。近年は史学研究所で産業考古遺産の保存・記録をおこなっている。

   ◇   ◇

【紹介文献】

▽金田章裕『地形と日本人 私たちはどこに暮らしてきたか』日経BP、 2020年

▽柴山元彦『3D地形図で歩く日本の活断層』創元社、2016年

▽渡辺満久『土地の「未来」は地形でわかる 災害を予測する変動地形学の世界』日経BP、2014年

2022/1/16
 

天気(5月23日)

  • 26℃
  • 18℃
  • 0%

  • 24℃
  • 14℃
  • 10%

  • 28℃
  • 19℃
  • 10%

  • 28℃
  • 17℃
  • 10%

お知らせ