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高齢者にとってペットは大切なパートナーですが… ※画像はイメージです(rai/stock.adobe.com)
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高齢者にとってペットは大切なパートナーですが… ※画像はイメージです(rai/stock.adobe.com)

ペットを飼育する高齢者は多いですが、怪我や病気で介護が必要な状態になるなど、世話ができなくなることへの懸念があるのも現実です。猫を飼育している親に認知症の症状が見られるようになり、不安を感じる人から相談がありました。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。

【相談】田舎で一人暮らしをしている高齢の母親が認知症になっていることがわかりました。母親は猫を5匹ほど飼っていますが、身の回りの片付けもおぼつかなくなりつつあり、いずれペットの餌やトイレの世話もできなくなるのではないかと心配です。早く手放してほしいと言っていますが、聞き入れてくれません。今後のためにしておくことはあるでしょうか。

■認知症になっても、猫の「所有権」は失われません
十分にお母さんと話し合って

▽1 猫を強制的に手放させることはできるか?

 「多頭飼育崩壊」の問題が報道されることが増えてきたためか、最近、このようなご相談を受けることが多くなってきました。

 飼い主が急病になったり、事故に遭ったり、収入が激減したりなどの事情でこれまでのように十分な世話や去勢手術ができなくなった結果、あっという間にペットの数が増えてしまい、気づいたときには悪臭や騒音などもう手に負えない状態になってしまっている、という問題です。逆に、増えるのではなく減ってしまう、つまり、ペットが十分な飼養を受けられずに餓死したり病死したりという傷ましいケースもあります。

 いずれも由々しい事態ではありますが、法律によって発生を予防することは難しいのが実情です。

 なぜなら、法律的に見ると、「猫を飼っている」ということは、飼主が猫の「所有権」を有している、ということになるからです。所有権者は、所有物に対する他人の干渉等を法律の力をもって排除することができます。我が国の憲法29条1項も「財産権は、これを侵してはならない」と定めて、所有権を含めた私有財産を基本的人権として強く保障することを宣言しています。

 所有権は、所有者が認知症になったとしても当然に失われるものではありません。ですので、ご相談のケースでも、飼い主のお母さんが認知症になったことを理由として猫を強制的に引き取ったり、動物愛護団体に引き渡したりすることは許されません。無断で猫を持ち去るようなことをすれば、窃盗罪や横領罪などの犯罪になる可能性すらあります。

 新しく猫の飼い主(所有権者)になるには、所有権を持っている元の飼い主から有効に譲り受ける必要があるのです。

 したがって、相談者の方としては、やはりまずお母さんと十分に話し合いをして事情を理解してもらい、猫たちを譲り受けるという合意を取ることを目指すことになります。

 お母さんがどうしても首を縦に振らず、猫たちを手元から離さない場合は、頻繁にお母さんのところに顔を出して猫たちの日常の世話を買って出る、という方法くらいしかないでしょう。

▽2 将来に備えて

 では、お母さんの認知症が進んでいよいよ猫の飼育が困難になってきた場合に備えて、今のうちにどんなことができるでしょうか。

 まず、お母さんとの間で「飼育困難な状況になった場合は猫の所有権を譲渡する」との条件付贈与契約や、猫の飼養を内容とする信託契約を結ぶことなどが考えられます。お母さんとしても、今すぐに手放すことはできなくても、「いよいよ飼育が難しくなった場合に備えて、今のうちに対策をしておく」という話であれば、協力してくれる可能性があるのではないでしょうか。この場合「どういう状況になったら譲渡・信託するのか」の条件は、例えば「要介護認定を受けた場合」などと客観的に明確な基準にしておくとよいです。

 お母さんの認知が既に進んでいる場合は、お母さんについて成年後見を申し立てて、お母さんの財産を管理しつつ猫の飼養を継続する方法も考えられます。

 また、将来への備えという意味では、お母さんが亡くなったあとのことも考えておく必要があります。お母さんに遺言を書いてもらって、死後の猫の相続人を決めておいてもらうのがよいでしょう。

 ただ、いずれの方法をとるにしても、「お母さんが飼えなくなった後、猫の面倒を実際にみる人」をきちんと決めておかねばなりません。

 せっかく有効に猫たちを譲渡しても、新しい飼い主がいい加減な飼育しかしないのであれば無意味になってしまいます。

 誰が新しい飼い主に相応しいのか、これは法律では回答が出せない問題です。ご親族や関係者で、猫たちにとって一番良い選択肢はなにかを検討し、そのための費用や手間などの負担をどう分担していくか、十分に相談し、理解した上で取り決めておくことが大切です。

 なお、「お母さんに手放してほしい」ということで、動物愛護センターなどの行政機関に引き取りを求めることを考えた方もおられるかもしれません。

 確かに、動物愛護管理法35条1項は都道府県等行政機関のペット引取義務を定めています。しかし、同法7条4項が、「動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養することに努めなければならない。」という終生飼養義務を定めていることからもわかるように、行政は「もう要らなくなったから」という理由での引取要求には応じてくれません。

 法35条1項但書及び同施行規則21条の2第6号は「あらかじめ引取りを求める犬又は猫の譲渡先を見つけるための取組を行っていない場合」には「その引取りを拒否することができる」と定めており、譲渡先、引取先を自分で探す努力をすることなく安易に行政機関に引き取りを求めたとしても、引取りを断られる可能性が高いと思われます。

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

2022/5/1
 

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