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3分間、きっちりとフタの役目を果たしてくれた「めんだこ6500」
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3分間、きっちりとフタの役目を果たしてくれた「めんだこ6500」

 思わずクスッとしてしまう、ユーモアに富んだ深海グッズを産み出し続けている「深海マザー」。中でも、深海のアイドルと呼ばれるメンダコをモチーフにしたカップ麺のフタ「カップメンダコ」の人気について昨年6月に報じたが、それ以降もメンダコの国内最長飼育記録更新、生きたダイオウイカの漂着といった深海生物にまつわる大きな話題が登場するたび、深海マザーも話題に登っているようだ。

 年々高まる人気とともに、深海生物をモチーフにしたグッズを手がけるクリエイターも次々と現れている。今年で12年目を迎え、界隈で圧倒的な地位を確立している深海マザーの心臓部とも言える作業場は、これまで構成員以外のなんぴとも出入りが禁じられていたのだが、筆者は前世でどんな徳を積んだのか、立ち入りを許されることとなった。

 そのうえ「製作工程のすべてを公開してもいい」と言う。日本で、いや世界で初めて、カップメンダコが産みだされる瞬間にメディアとして立ち会えるのだ。この重責を全うしなくては。かくして、密着取材がはじまった。 

■ぜんぶ手作業!驚愕の作業風景が明らかに

 この頃、深海マザーでは、とんでもないレア種の製作が進んでいた。その名も「めんだこ6500」。カップメンダコが、日本が誇る有人潜水調査船「しんかい6500」の船外装置に載せられて水深1382mまで到達し、破損することなく帰還したことを記念した完全受注生産の限定モデルだ。

 「めんだこ6500」は、深海マザーがこれまで禁断としてきた、別パーツの存在が特徴である。どことなーく、某潜水調査船然としたビジュアルから、製作作業のことは以後「建造」と呼ぶ。

 建造はまず、アタマとシッポ、2種類のパーツ型を造るところから始まった。シリコーン製の型の内部を、自作の真空脱泡注器という装置で真空状態にし、まんべんなく樹脂を流し込む。実はこの工程、気圧のコントロールに技術がいるらしく、建造開始当初は失敗が相次いだ。

 気泡を抜いた樹脂をカップメンダコの型に流し込むと、30分程で硬化する。思っていたより早い!なお、硬化中は60度くらいの熱を持つらしい。カップメンダコたち、頑張ってる。

 それにしても、液体樹脂の状態から、カップメンダコが産み出される工程をつぶさに見せてもらえるとは、なんて贅沢なことだろうか。筆者が感激のあまり意識を手放しそうになっている間も、建造作業の手は止まらない。できあがったパーツは、ひとつひとつ丁寧にバリ取りがおこなわれ、ヤスリで磨き上げられる。ここで形が決まってしまう、とても重要な工程だ。

 本体の方も、スポンジヤスリで角を丸め、手触り良く仕上げられていく。なお、この「めんだこ6500」は100隻ほど建造予定とのこと。この作業を、パーツで200回、本体で100回の計300回やるんですね.....。

 このように、めちゃくちゃに手をかけた成型作業が終わると、こんな景色を見ることができる。壮観。深海マザーではこの状態になると「総員配置、整いました。」と号令がかかる。

■生命が吹き込まれる瞬間

 成形が終われば、次は塗装が待っている。完成品が白いから本体はそのままなんじゃないの?と思われたかもしれないが、エアスプレーガンで下地材と白い塗料が吹き付けられていく。別パーツにも下地材を吹き付けてから、黄色い塗料を重ねる。こうすることで、発色が良くなり、より艶やかな仕上がりとなるのだ。

 次に、塗料で裏面の吸盤を造っていく。メンダコは、ミズダコと同様8本の腕を持っている。大きな膜でつながっているため、1本1本を自由に動かすことはできないが、その腕には吸盤がついている。メンダコの身体的特徴は、カップメンダコにもしっかり受け継がれているのだ。

 さて、いよいよ「目」を入れる時がやってきた。こちらまで緊張し、しばし息をするのを忘れてしまう。これまで公開されることのなかった作業場で、こうして日夜、人知れず生命が吹き込まれている。目を与えられたカップメンダコたちは、急に表情がいきいきとしたように見えた。

■「めんだこ6500」の建造はまだ終わらない

 すべての塗装が終われば、あとは組み立てて完成!とはいかないのが、超レア種の「めんだこ6500」。ここからは、ロゴなど1隻につき5枚、計500枚のシール(しかもかなり小さい)を貼るという、修行のような工程が待っている。なおシールは、正式にはデカールと呼ばれる転写式のシートである。

 ここまでくれば完成は近い。まずはアタマを取り付け、輪ゴムで縛るという、独自性の高い手法により定着が図られる。素の状態で並んでいた塗装前と比べると、白さは厚みを増し、心なしか表情は頼もしく見える。仕上げにウレタンクリア樹脂コーティングという自動車の塗装に使われる塗料を施し、塗装が完了。これは「めんだこ6500」が深海調査に同行して、万が一、海底から噴出する熱水に触れることがあっても大丈夫なように...という優しさである。

 仕上げが終われば、温蔵庫で60度に温めることでウレタンクリア樹脂が1時間ほどで完全硬化する。温蔵庫に入っているカップメンダコの姿に、日サロ通いのギャル男の姿が重なるが、この青い光に特に意味はないらしい。「これってUVライトで硬化してるんですよね!?」と、したり顔で聞いた筆者の気まずさったら。

 さあ、フィナーレは近い。カッチカチに硬化した本体に、シッポを取り付けたら「めんだこ6500」の誕生である。あとは梱包作業を残すのみ。この壮大なドラマが終わってしまうことが名残惜しい。ただ、その梱包作業のラスボスっぷりもすごい。黒い薄紙で優しくみこみ、クッション材を敷いた専用箱にそっと入れる。

 さらに箔押しロゴが輝く帯を巻いたら、メッセージ入りの付箋と深海マザー名物「深海生物、潜入成功」リーフレットを添え、梱包。こうして、さながらマンションのように、出港を待つ「めんだこ6500」の壁が築かれた。

■エピローグ

 建造を終えた関係者は、互いの健闘を讃えあった後、倒れ込むようにして眠ったという。建造時に求められる集中力、購入者への思いなどが、深海さながらの水圧となって全身にのしかかっていた分、配送業者のトラックを見送った時の開放感は至上だったと深海マザーの宇山氏は振り返る。

 これまで表に出ることのなかったカップメンダコの製作現場。その全てを見届けた筆者の元にも、「めんだこ6500」がやってきたのは、ほんの数日前のことだ。造り手に最大限の敬意を表するには軽率に開けてはいけない気がして、あらゆるタスクを整理し、すべての心を傾けて開封の儀を行った。

 か..かわいい...!

 「もったいないから飾っておく」と言いたいところだが、やはりここは関係者に最大限の感謝を込めて、カップ麺のフタを押さえるという任務についてもらうことにする。

 製作工程を公開してもいい、と聞いた時には企業秘密的なノウハウが漏れてしまうのではと心配になったが、真似したとて、この飽くなきクリエイター魂はそう簡単に真似できるものではないだろう。

 「今回、別パーツやデカールといった新たな手法を取り入れたことで、さらに製作の幅が広がった。また何か特別なことをやる時には、ぜひ取り入れたい」と宇山氏は話す。

 深海マザーの海には、底というものがないらしい。めんだこ6500に乗ってその深みへと、どこまでも追いかけていく。

(まいどなニュース特約・脈 脈子)

2022/5/3
 

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