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机や椅子は自由に動かしてOK。鳥や虫の声、風の音をBGMにゆっくりと。時間帯によってレコードも聴ける
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机や椅子は自由に動かしてOK。鳥や虫の声、風の音をBGMにゆっくりと。時間帯によってレコードも聴ける

琵琶湖の東にある、滋賀県米原市。日本百名山の一つ、伊吹山のふもとに広がる春照(すいじょう)に5月15日、私設図書館がオープンした。その名も「宇宙図書艦 Hull-Terrace(ハルテラス)」。数学や宇宙、SF小説などの書籍が2500冊以上あるという。

「自称『宇宙人』で、塾を開き、学生に数学を教えていた父。そんな父が集めたマニアックな本をシェアする場を作りたかった」と語るのは、運営する安川美佐子さん。地域の憩いの場として、友人や知人らの力を借りて作り上げた。

■本だけじゃない、ハルテラスの内部とは

シンプルな建物に一歩入ると、高い天井に木目の壁、サルスベリの枝と、およそ図書館らしくない内装。広い空間を上下に隔てるように、中二階の床が張り出し、その下の壁面に並ぶのが数学や宇宙、SF小説といった書籍類。かつて学校の教室にあった机と椅子が懐かしい。塾の教室で使われていたもので、来館者は椅子や、そばのソファなどお気に入りの場所で本を読むことができる。

表面にロケットや銀河のペイントが施されているのは籾のタンクで、この建物が農業倉庫だったことを物語る。そばには国産の薪ストーブが置かれ、階段下には“子どもたちの秘密基地”。壁は子どものクレヨン画がデザインされ、まさに秘密の空間だ。

2階は、友人から贈られたという広い机が一台。ここでワークショップや講座の開催、また置いてあるミシンやスチームクリーナーなどを使って、裁縫やクラフト作業ができる。

ハルテラスに備わっているのは、図書館の機能だけではない。開催されるイベントやシェアルームに参加したい人たちが集まり、体験を共有できるスペースでもあるのだ。

■読んでもらってこそ、意味がある

メインの本棚に並ぶ蔵書は、安川さんの父の遺品である。しかし安川さんは「よく、父をしのんで作ったのかと聞かれます。でも、私がやりたいからやっているだけなんです」とあっけらかんと話す。

小学生から高校生を相手に数学を教え、学校のPTA会長も務めたという父親。家庭では典型的な昭和の頑固おやじで、時間に厳しかった。「小学生の頃など、寝る前に両親の前で三つ指ついて『お父さん、お母さん、おやすみなさい』と挨拶していましたよ」

PTA会長の娘さん、数学塾の娘さん、勉強ができる優等生であれといった周囲からの視線で、子どもの頃は父をうとましく思うことも。しかし娘を子ども扱いせず、対等に接してくれる父でもあったという。よく、科学雑誌や数学の話題をテーマに「どう思う?」と尋ねてきた、と振り返る。

今、安川さんは数秘術など数字にまつわる活動もし、安川さんの姉は京都で数学教師をしている。

姉妹はいつのまにか、父と数字でつながっていた。姉は「お父さんも、こういうことがしたかったのかもね」と言ってくれた。安川さんは「ハルテラスが、本と出合う人たちの発見や好奇心につながれば」と願っている。

■かつて地球にやって来た宇宙船に、乗組員が集う

「宇宙図書艦 Hull-Terrace(ハルテラス)」の名前の由来は、地名の春照の訓読み。そしてHull(船体)とTerrace(遺構)を掛け合わせた。イメージは「ずっと昔、地球にやってきた宇宙船」。遊びに来る人は、かつてこの宇宙船の乗組員だったというストーリーだ。ここで新鮮な気持ちで地球の知恵を学び、恵みを味わい、地球にやってきたことを楽しんで欲しいと安川さんは語る。

「とは言っても、自由に楽しんでくださって良いですよ」とほほ笑む安川さん。山と水がある場所に私設図書館を作るのは、安川さんの長年の夢だった。そこへ友人が、空いている車庫兼農業倉庫があると申し出てくれたのが、ハルテラスの第一歩だった。

ハルテラスのある地域は、日本から失われつつある里山。山と田んぼ、川があり、昔ながらの暮らしの知恵がつまった場所だ。安川さんは、ある女性の「ここで子どもに『日本のふるさと』を体感させたい」という言葉が強く印象に残っていると言う。

「本や音楽など、五感を通じて得られる環境から、刺激を受け取ってくれたら。体験できる機会をどんどんつくっていきたい」

開館日はInstagramやFacebookをチェック。

(まいどなニュース特約・國松 珠実)

2022/5/20
 

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