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赤ちゃんにミルクを与えるパパ(koti.adobe.stock.com)
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赤ちゃんにミルクを与えるパパ(koti.adobe.stock.com)

2010年の新語・流行語大賞で「イクメン」がトップテンに選ばれて以来、言葉の浸透は男性の育児参加にひと役買ってきました。ただ、子育ての現実という面から見た場合はどうでしょう。「イクメンやっていると思う夫」と「孤独を深める妻」という両者の違いを分析したツイートがSNSで話題になっています。

「イクメンという世界観が受け入れられなかった理由がわかってきた。『どんな形でも父親が育児参加するならいいじゃん、まず楽しむことからだろ』って思ってたけど、違う。妻が夫と分かち合いたいのは、育児のドロドロの面なんだ。キラキラの面だけ参加されると、夫はやってると思い、妻は孤独を深める」とツイートしたのは黒川 駿哉 / 児童精神科医さん(@shunya5)。

投稿者は「孤独を深めた妻は夫を責める。でも夫はやれる範囲で最大限やってるから『女性ホルモンでガルガルしてる』って思いたいし、お互いのために距離を取りたくもなる。でも妻が向けているその攻撃性の中にこそ、孤独と苦しさと「助けて」が詰まっていて、つまり夫は絶対ホルモンのせいにして逃げたらあかん」と続けました。

ベネッセコーポレーションが2020年に実施した意識調査「たまひよ妊娠・出産白書2021 出産・育児・仕事をめぐる母親の意識」で、
・日本は「子どもを産み育てやすい社会だと思わない」母親が約7割
・子育てを「楽しい・幸せを感じる」人は9割強とほぼ全員。一方で自信のなさや、「孤独感を感じる」人も約3割
と、母親の声を分析しています。

ツイートのリプ欄には、
「その通りだなと思います!!育児のキラキラな部分なんてほんの少しで、大部分のドロドロを分かち合えない。気持ちを共感し合うのは難しいなと感じています」
「雨の日も雪の日も保育園までの坂をベビーカー押して通ったり、共働きの妻の睡眠時間を稼ぐために夜泣き対応したり、夜早く帰って食事洗濯、皿洗い、風呂などレギュラーのタスクを時間内に毎日こなすとそれだけで自分を全て使い切ります。仕事もあり、どれもヘマをできなかったなと。ギリギリでした」
と、共感するツイートが見られました

投稿した黒川 駿哉 / 児童精神科医さんに話を聞きました。

■育児のドロドロって何?

ーー育児のドロドロの面とキラキラの面の違いを教えていただけますか。

「ツイートのリプにも、大変な『こと』の例がいろいろ挙げられていましたが、僕はその問い自体が少しずれていると感じます」

ーー洗濯とか料理とか具体的な事柄ではないということですか。

「具体的な『こと(doing)』ではなく、親としての当事者意識というか、『ありよう(being)』だと思っています。育児の大変さは、やらなければならない『こと』の多さとか汚さだけではありません。『親として自分がやらなければ子どもを死なせてしまうかもしれない』というプレッシャーのなかで、いつも自分のことよりも子どものことを優先して動かなければならず、思い通りにならないことがあったり疲れていたりしても逃げられない。そのような『最終責任者』の心理状態であり続けることが、ドロドロとした『ありよう』なのではないでしょうか」

ーーということは、家事が一つ片付いたからドロドロが終わるというわけではないのですね。

「そうですね。『ありよう』は24時間365日続くので、従来の家族像に囚われ妻が一人で担うにはあまりに重たく、苦しく、孤独なのではないかと感じています」

ーーしかし、外で働くというのも大変なことです。男性は、ドロドロに関与する余力がないのではないでしょうか。

「それは全くその通りだと思います。外で働く仕事にも常に大きなプレッシャー、責任がのしかかってきます。理不尽なこともあればうまくいかないことばかりです。さらに、家庭を持つと『家族を支えなければ』という気持ちで、仕事を簡単に辞めたり逃げたりすることもできず背負っている荷物はとても大きいと思います。」

ーーフルタイムで働いている女性もいますし、家族の形態によっても違うでしょうか。

「はい、色々な家庭の形があるので一概には言えないのですが、やはり話し合いが大切だと思います。夫婦の間で、妻が育児の最終責任者だと双方の共通認識ができている家庭の場合は、あまり問題にならないと思います。ただ、社会全体としては共働きが増え、その割合は70%に迫っています。これだけ時代が変わってきているのにも関わらず、多くの家庭で、妻が仕事をしながら一人で育児の最終責任者の役割を担うこと、そこに夫がお手伝い感覚で育児に参加する感覚に不公平感があるかもしれません。今回は、そうした人の潜在的なモヤモヤが共感を呼んだのかなと感じています」

■一人で抱え込まなくていい社会に

ーー妻が不公平感を一人で抱え込んでしまうのも良くないのですね。

「そうですね。妻側も『育児の責任を一挙に担って当たり前という心理状態がきついんだ』ということを自覚し、言葉にし、夫婦でチームで取り組むべき課題としてシェアできるというのも大切だと思います」

ーー「女性ホルモンでガルガル」となることはあるのでしょうか。

「女性ホルモンの急激な変化によってイライラしやすくなったり、不安や抑うつを引き起こしたりすることはあります。ただし、それが全てではありません。妻が上述のような心理状態にあることを夫が理解せず、何もかもホルモンのせいにして思考停止してしまうと、溝は深まる一方です」

ーー溝を深めないために、具体的にはどうしたらいいと思われますか?

「お互いが『どうあるべきか』を話し合って、納得することが大切だと思います。ひとつは、役割分担について話し合うこと。それぞれが補い合うという形で合意ができるのであれば、それでいいと思います。夫に時間などのリソースがあまりなければ、子どもに関する大事な意思決定について真剣に考え、話し合い、責任をもって意見を交わしましょう。あるいは、子どもの前で妻を立てるとか、逆に嫌われ役を担ってもいいでしょう。責任の一部を担ったり、妻が動きやすくしたりするよう意識でできると、妻はドロドロの荷物を肩からおろすことができるかもしれません。このようなチームとしての役割やバランスは、一度決めて終わりではなく、1週間おきにでも1ヶ月おきにでも、子どものステージに合わせて振り返って微修正していくことが大切だと思います」

ーー育児のプレッシャーから解放される時間も必要でしょうね。

「育児のプレッシャーは、それが①24時間365日続き、②家という仕事現場に居続けなければならず、③終わりが見えないということです。短期的な負担こそ地味かもしれませんが、それが何十年と続くダメージや負担の総量というのは相当なものです。なので、①育児から完全に妻が解放されるような時間を作る、ヘルパーや家事代行などの社会資源を利用し「すること」を極力減らす、②妻が子どもを置いて友人と外出するなど、家という現場から物理的に解放される状況を作る、③中間目標になるような見通しを立てる(夏休みになったら、直近の子どもの受験がひと段落したら、成長して育児を終えたら、夫婦で~しようなどの話をする)などです」

ーー他責思考になるから軋轢がうまれる」というリプライもありますが。

「お互い大変だけど、質が違う。お互いの大変さを比較している限り、前に勧めません。そういう意味で、僕は短くても夫が育児休暇を取得し、本気で主たる責任者の意識で取り組んでみることはとても大切かなと思います。すると、育休明けに役割をどうしていくかに関わらず、育児のドロドロのイメージが深まるからです。この4月から男性の育児休暇取得の法律が変わったことは、子どもの安心安全な育ちを取り巻く社会にとって大きな一歩だと思っています」

ーー先生は、従来の「家族」単位で何もかも解決するのは難しいとお考えですか。

「今日のお話では、一人の夫、一人の父として夫婦関係の視点でお話させていただきましたが、児童精神科医としては、議論を家族内の責任のなすりつけあいで終わらせるのは危険であると考えます。
残念ながら、現状の社会の仕組みとしては、一人一人の子どもの育ちを守ることが最優先であるとは言えず、あくまでも大人がしなければならない仕事の都合が優先で、家族が働かなければならない間に保育園など、最小人数の大人の見守りでなんとか「預かって管理」する、ギリギリの仕組みで成り立っています。もちろんそれですくすく元気に育っていくお子さんも多いと思いますが、忙しい家族+個別性の低い集団環境が子どもの育ちにベストであると僕自身は思えません。
コロナで風通しが悪くなり、「家族」の孤立がさらに進み、虐待や子どもの自殺が増え、子どもを家庭中心で育てることの困難さが浮き彫りになりました。社会が子育てを「家族」や「夫婦関係」の問題にして押し付けず、全体で抱えて育てていく方向に進んでいくことを願っています。
ちなみに、市町村の役所で相談すると、たいてい縦割りでわかりにくいのですが、色んな子育て・家事支援の資源やサークルなどの団体を紹介してくれます。お子さんにとっても、親御さんにとっても、複数の居場所、複数の相談先、複数の社会との接点をもち、孤立しないことが大切だと思います。どうか抱えすぎないでください。
子どもにとって「人生ハードモード」のこの現状をすぐには変えられませんが、大人の都合が優先になっている現状を、私達大人が当たり前だと思わずに、子どもに対して『申し訳ない』気持ちをもちながら、みんなで少しずつ変えていくという意識を持つことは今日からできると思います」

黒川駿哉(慶應義塾大学医学部 精神・神経科 特任助教 / 不知火クリニック )
1987年生まれ、児童精神科医・医学博士。山形大学医学部卒。慶應義塾大学大学院博士課程修了。幼少期を過ごした英国での生活が原体験となり、思春期の友達づくり支援団体「COROBO project」の立ち上げ、知的/発達障害児・者サッカースクール「認定NPOトラッソス」チームドクターを務めるなど、子どもの主体性を引き出す様々な団体の活動支援に力を入れている。「優れるな異なれ」がモットー。著書に「10才からの気持ちのレッスン」(アルク社)Twitter:@shunya5

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

2022/6/26
 

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