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夫婦は「ハナちゃんにのびのび過ごして欲しい」と接しました
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夫婦は「ハナちゃんにのびのび過ごして欲しい」と接しました

ペットと暮らした経験がなかった旦那さんと、大の犬好きの奥さん。奥さんは過去にワンコの世話をするボランティアをした経験があるほどで、「犬を飼いたい」とずっと願っていました。

そんな夫婦2人が一念発起し保護犬を飼うことにしました。いくつかの保護団体のブログなどを見て、「わんにゃん小梅保育園」というところにいた、推定12歳ほどのシニアの保護犬「ハナちゃん」にまず会ってみたいと同団体へ向かいました。

その団体には、ハナちゃん以外にも複数のワンコなどがいました。どの子もそれぞれ事情が異なった一方、やっぱり気になるのはハナちゃん。初対面となったハナちゃんは、背中に大きな茶色のブチ模様、額にはポッチリのおできがあり、事前にブログで見た通りのかわいさでした。リードを借りてハナちゃんとちょっとお散歩をしてみると、スタスタと軽快に坂道を登っていきました。団体の担当者は「普段はゆっくりで、あまり歩かないんですけどね」と言います。

ハナちゃんとの出会いに縁を感じた旦那さんと奥さんは、この日のうちにトライアルの申込書を書き、引き渡しの約束に取り付けました。

■「私たちに、この子を飼う資格があるのだろうか」

1ヶ月のトライアル期間を経て、のちに正式に夫婦の家族になるハナちゃんですが、最初から順風満帆に馴染んだわけではありませんでした。

まず、トライアル期間中に難儀したのが「ハナちゃんに目薬がさせるかどうか」。ハナちゃんは左目に緑内障を患っており、ときどき痛みが出るため1日3回ほど目薬をさす必要がありました。

しかし、ハナちゃんはどこか孤高な印象の、クールな性格でことさら人に懐くような素振りをしません。そのためか、旦那さんがハナちゃんに目薬をさそうとすると「ガブッ」と口を開けて嫌がりました。団体のところでは難なくさせていたと聞いていましたが、夫婦にはまだ心を許していないのか、目薬をささせてくれません。このとき旦那さんはこう思ったと言います。

「ハナちゃんに目薬をまともにさせない私たちに、この子を飼う資格があるのだろうか。本当にダメなら、こんなにかわいいハナちゃんを団体の返さなければいけないのだろうか」

そう不安に思った夫婦は、それから毎日、目薬をさすための試行錯誤をしました。寝ているときにトライ、目薬がハナちゃんから見えないようにトライなど。なかなか苦戦しましたが、ようやく1日1回ほどは目薬がさせるようになり、これからも「1日3回目薬をさす」トライをすることを強く決意し、正式に夫婦の家族になりました。

■最低限の散歩トレーニング以外は、ハナちゃんの気持ち優先で

「お手」「おすわり」「待て」を覚えられず、最初の頃は吠えグセまであったハナちゃんでしたが、それでも次第に夫婦にハナちゃんは馴染んでいきました。

特にすごいのが散歩で、リードをグイグイ引っ張るほど積極的。「え、本当にシニア犬?」と思うほどに元気に歩きまわります。

夫婦は最低限の散歩トレーニングなどはしましたが、できるだけハナちゃんの気持ちを優先するように接しました。「ハナちゃんはシニア犬の保護犬。これまでたくさん辛い思いをしただろうから、できるだけ無理なしつけはしないでのびのび過ごして欲しい」と思ったからです。

■腫瘍切除の手術をすることになったハナちゃん

当初こそ元気すぎるハナちゃんでしたが、あるときから後ろ足近くにある乳首をぺろぺろ舐める場面を見るようになりました。

もともとハナちゃんは前述の緑内障に加え、乳腺腫瘍が胸全体にありました。「切除するにはシニア犬の体力的にも困難な状態」と聞いていましたが、改めて心配になり、すぐに動物病院に連れていきました。獣医さんに診てもらうと、後ろ足近くと前足の腫瘍のどちらも乳腺腫瘍で、一見悪そうな、後ろ足の腫瘍よりも前足のほうが実は問題があると言います。さらに、放置すると歩けなくなる可能性がある一方、切除するには付近の筋肉も一緒に切り取る必要があるとのことでした。

シニア犬の手術は怖いですが、ここで手術しておかなければハナちゃんはもっと辛くなる……そう考えた夫婦は迷いなく手術を選びました。

獣医さんのおかげで手術は順調に進み、術後のハナちゃんが想像以上に元気で、夫婦は胸を撫で下ろしましたが、ここで獣医さんから思わぬことが告げられました。

■腫瘍の中身は乳ガンだった…

もともと獣医さんから「腫瘍の内容は、切除して病理検査をしてみないとわからない」と言われていましたが、手術を終えて検査の結果を聞くと、乳ガンだと言います。さらに、この乳がんは4ヶ月後、肺に転移したことも発覚しました。

このときに提示された治療は2つありました。治療せず痛みを和らげるか、緩和ケアするかでした。しかし、この時点でのハナちゃんの年齢は推定13歳。夫婦は迷いながらも、緩和ケアを選ぶことにしました。

術後のひとときこそ、元気を取り戻し、夫婦に笑顔を見せてくれたハナちゃんでしたが、しばらくして歩かなくなり、エサも食べてくれなくなりました。さらに、ガンが脳に転移したようで、まともに立っていられなくなるほどになりました。転がっては頭を叩きつけ、オシッコも漏らすようになってしまいました。

■ハナちゃん、うちに来てくれて本当にありがとう 

それでも夫婦は少しでも長くハナちゃんが生き延びてくれるよう懸命に世話をしました。しかし、ある日の晩、ハナちゃんの呼吸が荒くなり、8時間に及ぶ抵抗の末に、ハナちゃんは息を引き取ってしまいました。

保護団体からハナちゃんを譲り受けて1年3ヶ月という短い時間でしたが、夫婦にとってハナちゃんが与えてくれた時間が何よりありがたかったと言います。楽しいことも、辛いことも、イライラしたこともいっぱいあったけど、本来ならばもっと一緒にいたかったし、ハナちゃんにもっとたくさんの景色を見せてあげたかったと言います。

それでも、ハナちゃんが縁あって夫婦の元で最後の時間を過ごしてくれたことが嬉しく、そして最後まで諦めずに生き抜こうとしたハナちゃんの姿を夫婦は一生忘れることができないと言います。

あまりにも1年3ヶ月という間に、濃厚な時間をくれたハナちゃん。夫婦はハナちゃんの寝顔に「うちに来てくれて本当にありがとう。最後まで一緒にいてくれてありがとう。あっちでは元気にしていてね」と伝えました。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

2022/10/31
 

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