連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

(2)原因は究明されたか 議論は今も平行線
  • 印刷

 「なぜガス圧接部で鉄筋が切れたのか。常識から考えて、これだけの数が切れることはあり得ない」

 七月、大阪で開かれた日本建築学会近畿支部の報告会。富永恵・京大助教授(鉄筋コンクリート構造学)は震災以来、抱き続ける疑問をあらためて提起した。

 阪神高速神戸線の橋脚が六百三十五メートルにわたって倒壊した神戸市東灘区深江本町。震災翌日の昨年一月十八日、現地に足を踏み入れた富永助教授は鉄筋の大半が圧接部で破断しているのを目にした。それは異様な光景に映った。

 ガス圧接は、二本の鉄筋を熱と圧力を加えてつなぎ合わせる方法だ。圧接部は断面積が大きくなり、鉄筋の他の部分(母材部)より強いとされていた。

 橋脚の鉄筋は、引っ張り力に耐える役割を担う。破断は倒壊につながりかねない。切れてはならない部分でなぜ切れたのか。「施工不良の可能性を無視することはできないはずだ」。いまもなお、その問題に十分に目が向けられないことを、富永助教授はいぶかる。

 一方、小林一輔・千葉工業大教授(コンクリート工学)は、サイコロを並べたように破壊していたケースもあった橋脚のコンクリートを問題視する。

 「アルカリ骨材反応が進み、強度は半分以下まで落ちていたのではないか」

 「コンクリートのがん」といわれるアルカリ骨材反応。セメントなどに含まれるアルカリ成分と、砂利などの別の成分に水が加わって化学反応を起こし、コンクリートを劣化させる。

 倒壊の原因について、震災直後から多くの問題点が指摘されてきた。

    ◆

 高架高速道路はなぜ倒壊したのか・。建設省は昨年十二月、「道路橋の被災に関する調査報告書」を出した。事実上、国の最終の調査報告である。百五十ページ近い記述は詳細だが、同三月の中間報告書とほとんど内容は変わらず、倒壊原因については簡単にしか記していない。

 「設計で想定していた以上の大きな水平方向の地震力を受けたことが被災の根本的な原因と考えられる」

 「想定以上」の言葉には、「どこにも手落ちはなかった」とする姿勢が読み取れる。

 倒壊橋脚の撤去作業は十日間で終わったため、一般の研究者はほとんど原因究明のためのデータを入手できなかった。報告書の試験データが唯一、公開されているものだ。

 富永助教授は、そのデータにも問題点があるとする。報告書の鉄筋の引っ張り試験では、圧接部で破断したものと母材部で切れた数は半々で、その強度は「いずれも規格値を上回った」とする。

 「通常、圧接部で切れる割合は数%以下のはず。そもそも試験片がどこから採取したかも書いていない。矛盾に満ちた内容だ」と富永助教授。

 報告書をつくった道路橋震災対策委員会の岩崎敏男委員長(元建設省土木研究所長)はこう話す。

 「被災した橋りょうは設計当時の基準を守ってつくられていた。当時、想定できた力だけで設計しているが、それはやむを得ないのではないか。倒壊の責任?報告書は技術的なことしか述べないものだ」

 震災から一年半が過ぎても、倒壊の原因をめぐる議論は平行線が続く。専門的な立場から出る疑問は、依然、膨らんだままだ。

 委員の一人は、報告書の不十分さを一部認めながら話した。

 「行政のつくる報告書。自分から間違いがあったとは言えないでしょう」

1996/8/10
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 34℃
  • ---℃
  • 20%

  • 35℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ