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(6)効率追求に落とし穴 高度成長期に何が
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 「高度成長の中で、より安く、より早くと求められ、安全性とか品質管理への配慮がおろそかになってなかったか」

 阪神高速を含む建造物の被災状況を検証してきた大阪工業大の二村誠二講師(建築材料学)は、いま、そう問い掛ける。ものづくりに対する基本的な姿勢への疑問、である。

 震災後、二村氏の研究室に一人の男性が訪ねてきたことがあった。用件は鉄筋接合の技術についてだったが、数々の工事でガス圧接に携わったという男性の話は、一九六〇年代から七〇年代の現場の実態に及んだ。

 「ノルマは通常の倍以上。おのずと仕事は甘くなる。検査をパスするため、細工した別の鉄筋を実物と偽って差し出すこともあった」

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 建設ラッシュの高度成長期、土木・建築工事は大きな転換を迎えていた。「分業化」である。コンクリート構造物を例に取れば、セメントメーカー、骨材業者、生コン業者、生コンをポンプで圧送する業者などと分かれた。さらに建設段階は元請け、下請け、孫請けと細分化された。

 「分業化で工程の一括管理が難しくなり、チェックは各現場にゆだねられる。おまけに、業者には厳しいノルマ。これがどういう結果を招いたかは明らか」と二村氏は指摘する。

 倒壊した阪神高速神戸線の橋脚は、七〇年の大阪万博までの完成が至上命題だった。まさにこうした建設ラッシュ時代の真っただ中だった。

 「公団の現場監督は、工事関係者の間で『鬼』と恐れられていたほど厳しかったが、一から十まで見ることは不可能」

 当時、ある生コン工場で品質管理を担当、神戸線の現場にも立ち会った技術者はそう話し、時代の状況を振り返る。

 そのころ、多くの土木・建築現場に導入されたコンクリート圧送ポンプは、途中で詰まるトラブルを繰り返した。時間をロスし、工期に間に合わなくなる。そのためコンクリートの強度低下を知りながら、流動性を高める水が混入された。強度が十分に上がらないまま型枠を取りはずし、次の現場へと急ぐケースもあった、という。

 効率追求の考えは、コンクリートの原料調達でも同じだった。骨材として多用されるようになった砕石。宝塚、茨木、高槻などにも採石場はあったが陸送ではコストが高くつく。「臨海部の生コン工場に運ぶには海上輸送の方が効率的」と香川県・豊島産の石が選ばれた。しかし、砕石にアルカリ骨材反応を起こす成分が含まれていることが分かったのは、後のこと。

 ノルマや時間に追いたてられて、ものづくりは進んでいった。

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 震災から一年半余り。復興に向けた土木・建築工事が活発な被災地で、生コン業者の悲鳴を耳にした。出荷量は以前の二、三倍に膨らみ、各工場ともフル回転の生産を続ける。そこへゼネコンなどから頻繁に製品検査の代行を求められるという。

 「向こうにすれば、こっちに振った方が金や手間を省ける」と業界団体。震災体験を経て、高度成長期の構造や土壌はどう変わったのだろうか。

 七月二十五日、日本建築学会近畿支部が開いた「コンクリート系建物の被害調査報告会」。発表に立った二村氏は、建設工事で第三者機関が一括管理するシステムの確立を提言し、こう指摘した。

 「金や手間はかかるだろうが、次の世代に残すという考えでものづくりを進めるよう、発想を変えるべき時期にきている」

1996/8/15
 

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