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(4)学会の体質も壁に 警告はあったが…
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 「警鐘を鳴らしてから三十年になるのですが…」

 ドイツから帰国したばかりの山田稔・関西大建築学科教授(神戸大名誉教授)が歯がゆそうに話した。ドイツの大学で講演したが、やはり阪神高速の倒壊に関心が集まった。

 ロマプリエタ地震、ノースリッジ地震と、米国・西海岸で高架高速道路が相次いで崩壊した時、日本政府の調査団はじめ学者は「日本では同じことは起こらない」と繰り返した。そして、阪神高速が倒壊した。建設省の報告書は「想定以上の地震力」と、天災の側面を強調した。

 しかし、警告はあった。

 一九六八年五月の十勝沖地震。山田教授はコンクリート強度判定用のハンマーを肩に下げ、青森県三沢市に向かった。まず県立三沢商業高校へ。三階建て校舎の鉄筋コンクリート柱は斜めに亀裂が走り、崩壊していた。二年前の実験と同じ光景が目の前で起きていた。

 山田教授は、阪神高速完成前の六六年から鉄筋コンクリートの短柱が地震に対して極めて危険と警告していた。特にコンクリート柱の幅と高さの割合が一対四以下の場合、粘り強さがなくなり、斜めにずれるように壊れる、せん断破壊が起こると指摘した。六百三十五メートルにわたって倒壊した阪神高速の橋脚は、この条件にぴたりと当てはまるケースだった。

 山田教授は十勝沖地震後、「中低層の構造物は、揺れが増幅されるため、自重と同じ一Gの力に耐える設計が必要」と訴えた。日本の耐震基準は長く〇・二Gだった。その五倍の基準。一G対応は予算も多額になるため、山田教授は「国賊」呼ばわりされたという。

 阪神高速の耐震基準は〇・二G。阪神大震災では構造物によっては二Gもの揺れになったといわれる。しかし、以前にも宮城県沖地震(七八年)では東北大の建物で一G、ノースリッジ地震でも病院で二Gが記録されている。

 その数値が直ちに被害の大きさに結び付くわけではないにしても、構造物によって揺れが大きく増幅されることはすでに何回も観測されていた。「今まで認識がなかった」といえるのだろうか。

 古い基準の構造物の補強を訴えてきた山田教授は「米国・西海岸の地震で高架高速道路にどんな力がかかったのか。それが分からないで『日本は大丈夫』などと軽々しく言えなかったはずだ」と話す。

 「安全といわれた高速道路が、なぜ倒壊したのか」「どこにも責任がなかったのか」・。

 一年半が過ぎても、市民の側からの素朴な疑問に土木学者らは正面から答えているとはいえない。

    ◆

 「例えば日本と米国の違いは、危険の存在について積極的に出そうとするか、しないかだ。日本は出さない」

 河田恵昭・京大防災研究所教授は、かつての高速道路の”安全宣言”の背景には「日本的な体質」があるとする。

 一方、震災後の土木学者の歯切れの悪さにも理由があるといわれる。

 「土木研究は実学だ。成果を外で使ってもらわなければ意味がない。使うのはほとんどが公共事業。官側のお墨付きがなければ使われない。国に批判的な立場の人の業績など使ってはくれない」

 学者の一人はそう話して付け加えた。「だから、この問題は根が深い」

1996/8/13
 

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