「三年目からのざわつき」。神戸市内の中学校教諭(35)は、子供たちの間に流れるかすかな空気の変化をこう表現した。
遅刻。たばこ。授業中のおしゃべり。深夜の外出。「あの子まで…」と思う意外な生徒もいる。震災から二、三年。抑え込まれていた何かが一気に噴き出し始めた気がした。
今春まで二年間、復興担当教員を務めた。県内の小中学校に二百七人配置されている心のケアの担い手だ。勤務地は、ほとんどの生徒が住宅被害を受けた激震地。震災直後、教室にはピリッとした空気が張り詰めていた。子供たちの表情が「こんな非常時に、ばかなことはできない」と語っていた。
変化は、震災時の在学生が卒業し、小学生で震災を体験した世代と入れ替わった時期と重なった。親の言葉の端々から「震災の影」がにおう。難航する住宅再建や二重ローン。失業。ぎくしゃくする夫婦関係。
「子供に対して、どうすればいいか分からない」。家庭訪問で、親がぽつりと漏らすこともあった。
兵庫県教委は一九九六年から毎年、震災の影響で心のケアが必要な小中学生の数を調べている。昨年は、小学生で二千四百二十六人。中学生で千六百八十人。合計数は、調査二年目で二百七十七人増え、三年目でもほぼ横ばいだった。
「心の問題は今も落ち着いてはいない。乳幼児期に震災を体験した子供への影響も、今後どんな形で現れてくるのか分からない」と県教委の担当者。小学生の増加が特に目立つ。
臨床心理士の井上幸子さんは震災直後から、スクールカウンセラーとして、肉親を失った子供らと接してきた。今年、淡路島の小学校の調査で、一、二年生に強いストレスがあることが分かった。食欲不振や頭痛、地震の夢。震災時は二・三歳だ。「気づかずに寝てた」という母親もいるが、「地震の感覚は体に残っている」と井上さんはいう。
「子供は話したり、イメージで表現したりしながら震災を追体験し、現実として受け止めていく。しかし、幼い子は言語化できない分、吐き出せていない場合も多いのではないか」
専門家が共通して指摘するのは、「家族の力」の大切さだ。「子供の心の問題は、子供だけを見るのでなく、家族単位で考えるべき。そして、周囲の大人は、その子が『震災を経験した』という事実を常に頭の隅においておくことです」
神戸市児童相談所の精神科医、井出浩さんが警告する。
1999/10/15