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(7)リハビリ 病棟暮らしから地域へ
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 アルコール依存症者の作業所は、震災後、兵庫県内に三カ所できた。

 前回紹介した神戸市須磨区の「ぼちぼちはうす」と、尼崎、明石市にある。

 尼崎の「はなみずき」、明石の「あかし」は、依存症の回復者らで作る「兵庫県断酒連合会」が運営。それぞれ、作業所近くには、通所者が暮らすグループホームも持つ。財源は、復興基金と国・県の補助金で賄われる。

 JR西明石駅近くの住宅街にある「あかし」は、県内の作業所第一号だ。オープンして二年二カ月。訪ねた時は、数人の男性がプラスチックハンガーを紙の帯で束ねる仕事をしていた。奈良県の断酒会員が、会社の仕事を回してくれる。

 保明さん(38)が作業の輪の中にいた。二十代から入退院の繰り返し。まともに仕事に就いたことはない。酒を切らさず、気が向けば家に帰る。生活はすべて親まかせだった。

 二年前、退院した保明さんは親の勧めで開所して間もないホームに入った。入居者は昼間、作業所に通い、夜は毎日、断酒会の例会に出る。

 ホームはマンションの三室を借りている。2DKの部屋に二人ずつ、定員六人。知らなければ、ホームとは分からない。地域の中に、静かに溶け込む。

 「周囲に迷惑をかけんように、廊下や階段の掃除は欠かしません」。再飲酒の失敗もあったが、保明さんの断酒は一年以上続く。

 十月初め、ホームから県営住宅に引っ越した。社会復帰への第一歩。初めて落ち着いた”わが家”から作業所へ通う。

 アルコール依存症からの回復の道は、山あり谷ありだ。作業所に通っても、再入院する人は多い。家族に見放され、退院後行き場のない人もいる。もちろん、仕事などない。

 「だからこそ、こういう場が絶対に必要」。「はなみずき」世話人の濱元巌さん(63)は力を込める。かつて一人で仲間の仕事の世話に奔走したが、力尽きた。

 アルコールのリハビリ施設に、欠かせないのは地域や行政の理解。「あかし」も「はなみずき」も地域に農園を借り、農作業に取り組む。「ぼちぼちはうす」では、近所の高齢者が昼食を共にすることもある。

 閉鎖された病棟から、地域社会での暮らしへ。震災前は不可能にも思えた依存症者の夢が、少しずつ形になり始めている。

 「やっと『アル中』に目が向き始めた。でも『酔って道に寝てる』イメージはまだ消えない。行政も、医療関係者も、本当の理解はこれから」と、兵庫県断酒連合会の田所溢丕(みつひろ)会長。作業所には、全国からの視察が続く。

1999/10/19
 

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