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(5)契約解消 「優先的に出店」と言われ
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 「再開発ビルができたら、優先的に出店権利がある」。そう言われた。だから…。

 阪神・淡路大震災。神戸デパートの商店主らは、管理会社「神戸都市振興」との賃貸契約を解消、敷金の返還を受けた。

 一九九五年一月十七日。デパートに駆け付けた商店主たちは、焼け野原に建つデパートの姿に胸をなで下ろした。「とりあえず商売はできる」

 しかし、内部の被害はひどかった。三階の柱が折れ鉄筋がむき出しになっていた。全壊の認定。以後、事態は急転する。

 震災から一カ月後、解体が決定。続いて、管理会社解散の話が持ち上がる。ほぼ同時に契約解消の打診。状況を飲み込む間もなかった。

 中華料理「神戸飯店」の林攸樹(リン ユウジユ)さん(58)は解約を渋った。「まさか全壊とは思わなかった。補強すればいけると思った。とにかくデパート再建を。そう願った」

 度重なる説得に、林さんが書類にサインをしたのは九五年秋、解体工事が始まるころ。これで全員が解約に応じた。

    ◆

 「優先的な出店権利」。それは口約束だった。

 復興再開発事業のテーブルに着く前に賃貸契約を解消することは、実はビル完成後の権利を失うことを意味した。

 事業の権利を有する「従前権利者」。再開発の事業主である神戸市によると、その数は現在千九百八十一人。当初発表から百四十五人減った。

 この中にデパートの商店主らが含まれていた。

 婦人服「エル」の武田安司さん(61)。震災直後は、デパート前での仮設開業に走り回っていた。

 「管理会社がなくなればどうなるのか。ほとんどの商店主が不安に思っていた。そこへ口頭で優先権を約束される。サインしますよ。本来は会社がなくなっても、契約さえ残っていれば『権利者』なんだが。そういう説明はなかったなあ」

 契約解消は、地区のまちづくりへの参加を制限するものでもあった。紳士服「シドニー」の山辺康雄さん(52)が言った。

 「私らは切り捨てられた。あの場所は今でも一等地だと思う。店を出したい。そして、意見を聞いてほしい」

2003/1/17
 

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