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(8)将来像 「助け合う町」続く模索
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 今年九月、神戸市消防局警防課が事務局となって、新たな会合の場を設置する。

 「新時代の神戸市消防団検討委員会」(仮称)。市民、事業者、学識者、現役消防団員の計十二人を委員に予定している。

 消防団は市内各区にあり、計百六十一分団、四千人。だが若い人のなり手がない。平均年齢は三七・八歳だ。大半が会社員のため、昼間をどうカバーするか。しかも西区や北区では、ニュータウンに比べ、旧集落に団員が偏在する-。

 同課は「いざというとき専門技能を持つ消防団が地域の防災のリーダーとなる。どう再編成できるか。時代に合った将来像を探りたい」と委員会の狙いを語る。

 阪神・淡路大震災による生き埋め者数は、推定で三万人とも四万人ともいわれる。

 家屋倒壊現場などで、消防団も懸命に動き回った。団員たちが、勤め先から重機を借りたケースもあった。神戸市内で消防団は、九百五十八人の救助活動に携わり、うち八百十九人の命を救った。

 大規模災害では、公的救助だけでは対処しきれない。一人でも多くの命を救うには、コミュニティーの力が問われる。

 神戸市は既に震災後、消防団を含む、新たな自主防災組織「防災福祉コミュニティ」を発足させている。

 資機材や活動助成金を提供し、訓練や、いざというときの市民防災リーダーを養成する。小学校区を単位に、目標百九十四地区のうち、百八十三地区で立ち上げた。

 兵庫県津名郡北淡町。自宅にいた農業片山寛さん(78)は、地震で左足を梁(はり)に挟まれ、動けなくなった。血流が止まり、「細胞が壊死(えし)してしまう」。暗がりで恐怖は増した。「痛い、痛い」。妻の声が聞こえた。

 約三時間後、人の手が延びてきた。片山さんは、ゆっくりと助け出された。全身に血流が戻った。体がゆでだこのように真っ赤に染まった。挫滅症候群(ざめつしょうこうぐん=クラッシュしょうこうぐん)による死まで、間一髪だった。妻は圧死だった。生還した片山さんの目の前に、消防団員たちがいた。

 都市部に比べ、コミュニティーはしっかりしていると言われるが、安泰ではない。明石海峡大橋の開通で、島外へ働きに出る人が増えた。昼間に災害が起きれば、高齢者への影響は深刻だ。

 来年四月に控える自治体合併も懸念材料の一つだ。北淡町は、他の町より人口当たりの消防団員が多い。規模縮小は避けられない見通しだという。

 「もし、震災が十年後、二十年後に発生していれば、死者数はもっと多かったのでは」。北淡町役場総務課の富永登志也副課長(47)が、町の遠くに視線を運びながら、憂いをみせる。

 七十二時間。人と人の支え合いでしか越えられない壁がある。

=おわり=

(社会部・勝沼直子、須々木俊夫、松本茂祥)

2004/7/28
 

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