大正時代のガラス食器、古伊万里のとっくり…。長い年月をかけて集めた貴重な古物が、あっけなく砕け散った。
1995年1月17日-。神戸市兵庫区の自宅は半壊、近所の家も廃材と土くれの山に。鉄骨のビルがひしゃげた。
「大事にしてきたものが一瞬でひっくり返った。それをだしに作品づくりなんて、でけへん」
それでも85年から取り組むオブジェ制作だけは続けた。土台の木材に絵の具を1日1色、塗り重ねる。ひたすら塗り続けることで、現実と向き合う気持ちが熟成された。
1カ月がすぎ、「作品制作へ、気持ちが共鳴し始めた」と感じた。無秩序にも見える色使いと曲線を取り合わせ、混沌(こんとん)とした町を水彩画やパステル画で表現。心に焼き付いた崩壊の風景をがむしゃらに描いた。
「震災風景」と名付けた作品群は数百に上る。創作意欲が体の底からあふれる。立体作品、空間芸術、陶芸作家との合作など活動の幅を広げ、作品展など年間100を超す場に作品を送り出す。
「一度崩れたからこそ既成の物事にとらわれずにいられる」
崩壊と創造。震災が「前衛」をひた走るエネルギーの源となった。(峰大二郎)
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阪神・淡路大震災から間もなく丸16年。震災に魂を揺さぶられた美術家、書家、詩人ら8人の表現者にカメラを向けた。
2011/1/5